「給与が低い」と嘆く社員への「社長の不満」

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時給換算で考えれば・・・

   このこと自体はさほど重大な問題ではなかったのですが、私は社長がこれを聞いてどういう反応をするかに興味があり、給与面に関する社員の意見をお話ししました。すると、驚く風でもなく意外にも強気な答えが返ってきたのです。

「社員は分かっていないのですよ、本当のところを。時給換算で考えればうちは十分高い水準の給与を支払っているんですけどね」

   「時給換算?」

   大手だろうが中小だろうが月の所定労働時間に大差はないはずなので、月給でみても時給でみても、高いものは高い安いものは安いのじゃないかと、社長の言っている意味が私にはすんなり理解できずに思わず聞き返しました。

「僕は若い頃、先代の命を受けて大手上場企業に5年ばかり修行に出されました。自社に戻って分かったことは、大企業は仕事の密度が驚くほど濃いということ。彼らが1日法定8時間労働で働いている実質労働時間を仮に7時間としたら、うちあたりの会社はせいぜい4~5時間がいいところ。時給に換算したら、うちの方が給与は高くなるってことです。うちの職場が遊び半分とまでは言わないまでも、職場の雰囲気も含めて大手企業の就業環境の厳しさは中小企業の比じゃないです」

   社長の反論は続きます。

「うちの給与に不満を言っている連中は、結局大企業と比べているのです。同業他社で給与が分かるのは大手だし、うらやましいと思っている同級生はおそらく大企業勤務の人でしょう。雑誌に登場する世間相場もたいてい大企業平均。それらと比べるのだったら、時給で比べて欲しいということです。ドライな言い方ですが、経営者にとっては給与と言えども会社運営上のコストですから。もちろん、実質の時給を考えろとか給与はコストだから低く抑えたいとか、ブラックだと誤解されても困るので大きな声では言えません」

   会社運営者としての立場で考えるなら、気持ちでは収益を上げてできる限りたくさんの給与を社員一人ひとりに配ってあげたいと思ったとしても、企業の支出としてはいかに合理的に説明のつく金額に落ち着かせるか、ということを斟酌せざるを得ないのは曲げようのない事実なのです。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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