事故は誰にでも起こりえます。被害者になってしまうのか?それとも加害者になってしまうのか?どちらであっても事故は悲惨なものです。
1月は、気温もどんどん低下していくので、路面凍結による交通事故はもちろんのこと、暖房器具からの発火で火事になったり、お餅をのどに詰まらせたりなど、様々な事故に注意しなければいけません。
そこで今回は、運送会社のエピソードをもとに「業務中の事故」について考えていきたいと思います。(実際の事例を一部変更しています)
仕事は深夜2時から15時間、休みは2週間に1日程度
私は3か月前から小さな運送会社に勤めています。
社員が少なく、仕事は深夜2時から夕方5時頃までの15時間程度で、休みは2週間に1日あれば良いほうです。社長も先輩もとても親切にしてくれる会社だったので、過酷な労働条件にも耐えていました。
しかし先日、配達中に睡魔に襲われ、人身事故を起こしてしまいました。さらに、その事故によりトラックが横転し、積んでいたお客様の荷物をすべて壊してしまいました。
後日、病院に社長がお見舞いに来てくれたのですが、
「命に別状がなくてよかった。とりあえず、被害者への損害賠償とお客様への損害賠償は、代わりに支払っておいたが、早く返してくれよ。君が起こした事故なんだし」
とすべてが私に責任があると言い、損害賠償の全額を請求してきました。
居眠り運転で事故を起こした私にはもちろん責任はあるのですが、過酷な労働を課してきた会社にも責任があるのではと思うのですが、本当に私だけの責任なのでしょうか?
弁護士解説 労働条件が劣悪なら「会社の責任が大きい」と判断されそう
人間はロボットでない以上、どんなに真面目に働いても、業務中のミスは避けられませんよね。法律相談の中には、業務中のミスで会社に損害を与えたとして、会社から損害賠償を請求されて困っているといったケースが増えています。
まず、勤務中に労働者が「通常求められる注意義務を尽くしている場合」には、損害賠償義務は生じないのが原則です。また、些細な不注意により損害が発生したとしても、そのような損害の発生が日常的に発生するような性質のものである場合には、損害の発生はあらかじめ予定されているものとして、損害賠償義務は発生しません。会社としても、そのリスクを当然想定できるものであり、労働者を使って利益をあげている以上、そのリスクは会社が受け入れるべきだからです。これに対して、労働者に重大な過失や故意がある場合には、損害賠償義務を負うことになります。
今回のご相談は、配達中に睡魔に襲われ、人身事故を起こしてしまったとのこと。詳しい事故状況にもよりますが、ご相談者に重大な過失があると判断され、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
但し、ご相談者が損害賠償義務を負う場合でも、発生した損害の全てを負担しなければならないものではありません。どの程度の賠償義務が認められるかはケースバイケースですが、一般的には、労働者の過失の程度、会社側の管理体制(労働者に対する教育・訓練)、労働者のおかれた状況(労働条件の劣悪さ)などの要素を考慮した結果で、賠償義務が発生します。
今回のご相談者は、仕事が1日15時間で、休みは2週間に1日あればよい方とのことですから、会社からかなりの長時間労働を強いられています。厚生労働省の告示によると、トラック運転手の1か月の拘束時間の限度は原則293時間なので、会社は明らかにこの基準を超えて過重労働をさせていることになります。そうすると、労働条件が劣悪なため事故を誘発してしまったとも言えますので、会社の責任が大きいと判断され、労働者の負担割合はかなり低くなることが予想されます。
従業員は、会社で長時間勤務する以上、誰でもうっかりミスをする可能性があります。しかし、ミスについて従業員が全責任を負うものとは限りませんので、会社から損害賠償請求をされても不用意に支払わないで下さいね。(文責:「フクロウを飼う」弁護士 岩沙好幸)
ポイントを2点にまとめると、
1:勤務中に労働者が「通常求められる注意義務を尽くしている場合」には、損害賠償義務は生じないのが原則。これに対し、労働者に重大な過失や故意がある場合には、損害賠償義務を負うことになる。
2:一般的には、労働者の過失の程度、会社側の管理体制(労働者に対する教育・訓練)、労働者のおかれた状況(労働条件の劣悪さ)などの要素を考慮した結果で、賠償義務が発生。