弁護士解説 労働条件が劣悪なら「会社の責任が大きい」と判断されそう
人間はロボットでない以上、どんなに真面目に働いても、業務中のミスは避けられませんよね。法律相談の中には、業務中のミスで会社に損害を与えたとして、会社から損害賠償を請求されて困っているといったケースが増えています。
まず、勤務中に労働者が「通常求められる注意義務を尽くしている場合」には、損害賠償義務は生じないのが原則です。また、些細な不注意により損害が発生したとしても、そのような損害の発生が日常的に発生するような性質のものである場合には、損害の発生はあらかじめ予定されているものとして、損害賠償義務は発生しません。会社としても、そのリスクを当然想定できるものであり、労働者を使って利益をあげている以上、そのリスクは会社が受け入れるべきだからです。これに対して、労働者に重大な過失や故意がある場合には、損害賠償義務を負うことになります。
今回のご相談は、配達中に睡魔に襲われ、人身事故を起こしてしまったとのこと。詳しい事故状況にもよりますが、ご相談者に重大な過失があると判断され、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
但し、ご相談者が損害賠償義務を負う場合でも、発生した損害の全てを負担しなければならないものではありません。どの程度の賠償義務が認められるかはケースバイケースですが、一般的には、労働者の過失の程度、会社側の管理体制(労働者に対する教育・訓練)、労働者のおかれた状況(労働条件の劣悪さ)などの要素を考慮した結果で、賠償義務が発生します。
今回のご相談者は、仕事が1日15時間で、休みは2週間に1日あればよい方とのことですから、会社からかなりの長時間労働を強いられています。厚生労働省の告示によると、トラック運転手の1か月の拘束時間の限度は原則293時間なので、会社は明らかにこの基準を超えて過重労働をさせていることになります。そうすると、労働条件が劣悪なため事故を誘発してしまったとも言えますので、会社の責任が大きいと判断され、労働者の負担割合はかなり低くなることが予想されます。
従業員は、会社で長時間勤務する以上、誰でもうっかりミスをする可能性があります。しかし、ミスについて従業員が全責任を負うものとは限りませんので、会社から損害賠償請求をされても不用意に支払わないで下さいね。(文責:「フクロウを飼う」弁護士 岩沙好幸)
ポイントを2点にまとめると、
1:勤務中に労働者が「通常求められる注意義務を尽くしている場合」には、損害賠償義務は生じないのが原則。これに対し、労働者に重大な過失や故意がある場合には、損害賠償義務を負うことになる。
2:一般的には、労働者の過失の程度、会社側の管理体制(労働者に対する教育・訓練)、労働者のおかれた状況(労働条件の劣悪さ)などの要素を考慮した結果で、賠償義務が発生。