花街の宴の席で、伝統芸能を披露し、お客さんをもてなす「舞妓」。最近は「京都ブーム」もあって、全国から志願者が集まるそうです。今回は、拙著『キャバ嬢の社会学』を書くため、京都の花街を取材した際に出会った「舞妓さんの仕事ぶり」について取り上げます。
ヘルプのホステスかと思ったら
関西を中心に「ホステスクラブ」や「ラウンジ」を取材していたとき、一度だけ本物の「舞妓さん」と出会ったことがあります。しかも、なんとお店の中で・・・。当時の私は、登録制のホステスとして、クラブやラウンジに派遣されて働いていたのですが、そのお店に舞妓さんが呼ばれてきたのです。
店内には、60代の常連さんが1人。カラオケが大好きな人で、歌の上手さには自信があるようでした。採点機能で、91点、92点と高得点を出し、上機嫌のお客さん。何曲か歌い終わって、場も盛り上がってきた頃、ママが「今から◯◯ちゃんを呼ぼう」と言い出しました。
「もう1人、ヘルプのホステスが来るのかな?」と思っていたら、30分ほどしてお店に現れたのは、なんと着物姿の舞妓さん(18歳)。「えぇー!?舞妓さんがラウンジに??」と、驚いたものですが、まれに、ママの交友関係から、そういうこともあるそうです。
舞妓さんの仕事場は、基本的には「お茶屋さん」や「料亭」で、ホステスたちとは違います。が、出勤のために祇園周辺を歩いていると、同じく仕事場へ向かう舞妓さんとすれ違うこともありました。そのたびに「彼女たちもこれからお仕事なんだなぁ」と思っていましたが、まさか自分が働くお店で出会うとは・・・。つい、興味津々で色々聞いてしまいました。
ふっくらした頬が可愛らしい、その舞妓さんは、着物の長い裾を丁寧に引き上げつつ、ソファに腰掛けました。名前はサツキさん(仮)といいます。中部地方の出身で、修学旅行で京都を訪れたのをきっかけに、舞妓を志したそう。中学を出てすぐ、京都にやって来ました。
18歳の「普通の女の子」らしい一面
「京都ブーム」や、舞妓さんを題材にした映画のヒットもあって、舞妓に興味をもつ少女は増えているそうです。が、サツキさんのように、18歳まで続くのは少数派。舞妓さんになるには、置屋さんで「仕込み」と呼ばれる1年の修行をしなければなりません。京ことばを覚えたり、先輩の手伝いや掃除洗濯をこなしたり。親元を離れての厳しい生活に、辞めてしまう子も多いのです。
その頃からサツキさんを知っているママは、「昔はサっちゃん、めっちゃ細かったなぁ。今の方がふっくらしてええわ」と言っていました。上品な京ことばで、「ご飯が美味しくて、つい食べ過ぎてしまう」と笑うサツキさんですが、舞妓さんの仕事は、苦労も多いのかなぁと思いました。
舞妓になって3年目のサツキさんは、さすが、振る舞いもしっかりしています。お客さんを積極的に喜ばせるというよりは、彼女がそこにいるだけで、場の空気が和むような感じ。さすがプロ・・・!と思っていたら、18歳の「普通の女の子」らしい一面を見ることもできました。お客さんから、「サツキさんの歌声が聞きたい」と言われ、彼女が選んだ曲は、若者に人気の「JUJU」。しかも、普段からカラオケが好きなようで、採点結果はなんと「98点」。みんなで「サツキちゃん、すごい!」と大絶賛です。
それまで「92点」が最高だった常連さんは、ちょっと対抗心を燃やしたのか、「自分も、この曲なら最高得点を出せるぞ」と、河島英五の「酒と泪と男と女」を、2回連続で熱唱。が、結果はむなしく「85点」「80点」......。肩を落とす常連さんにも、優しく、「私は1曲、歌わせて頂いただけで十分です」と、京ことばで微笑みかけるサツキさんでした。あれから5年。彼女は、舞妓を卒業し、立派な「芸妓」になっているでしょうか。今でも時々、思い出します。(北条かや)