今年、2014年もあと残すところ1週間となりました。今年は例年以上に様々な経営者の皆さんとお話する機会をいただき、たくさんのお悩み事を耳にしてまいりました。
振り返ってみますと、正確な数を数えたわけではありませんが、類似のお悩み事も含めて最も多かったと感じる社長方のお悩みは、「自分の言っていること、思っていることが社員に浸透しない」という類のもの。ミッション、ビジョン、戦略趣旨等々、社長自身の「想い」がなかなか社員に届かない、というお悩みを随分と耳にしたと実感しております。
経営者のビジョンが社員にうまく伝わらない
コーチング指導の研究機関が実施した、部下たちによるリーダー評価調査によれば、調査全8項目中、「リーダーのメッセージ伝達」の評点はかなり高いのに対して、「リーダーの方向性の提示」という項目は、全調査項目中で圧倒的最下位と言う結果が出ています。「伝達」はできているものの、「方向性」は伝わりにくい。この結果からも、「リーダーが伝えることの真意は理解されにくい」という実態が浮かび上がってくるのです。
「僕は自分のビジョンをしつこいぐらいに言い続けているのですが、社員のみんなにはなかなか十分に分かってもらえない。何かコツってないものでしょうか」
つい最近も、とあるパーティの席上で出会った40代前半の若い二代目社長Nさんから、こんなお悩み事が聞こえてきました。
会社によって多少の事情の違いはあれども、この手のお悩みは突き詰めればコミュニケーションの問題に尽きることがほとんど。トップのコミュニケーションを検証する際は、まずはコミュニケーションの量が足りているか否か。コミュニケーションの絶対量が不足している場合、質の向上はまず望めないからです。N社長にこの点を確認してみました。
「僕は毎日、社員に直接話をしています。ことあるごとに部門ミーティングにも出て、それぞれの部門にブレイクダウンして、ビジョンを分かりやすく伝えているのですがね・・・」
「えっ・・・。聞くって僕がですか?」
どうやら量は足りている様子。となると次に気になるのは、小手先で相手を懐柔しようとしていなかどうか。つまり熱意を持って伝える気持ちよりも、手を変え品を変え的なコミュニケーション・テクニックに走っていないかどうか、です。
「そんな器用さは持ち合わせていないですよ。僕はとにかく一生懸命、熱意を持って僕の想いを日々表面的な言い方を変えながらも伝えているだけですから。小手先のテクニックなんてとてもとても・・・」
実直そうで若くて何事にも一生懸命という社長の雰囲気からは、恐らく彼が話している通り、ストレートに熱を帯びて社員に語りかけている姿が目に浮かびます。
となると、残るはもう1点。一方的なコミュニケーションに偏っていないか否か。すなわちややもするとありがちな、一方的に「話す」に偏って、「聞く」というコミュニケーションを怠っていないかどうかです。リーダーとスタッフの間の「対話」を実現していくためには、「話す」と同等か、もしくはそれ以上に「聞く」を重視するぐらいのバランスが欲しいところなのです。
この点に言及すると、それまで自信ありげだったN社長の顔が少し曇りました。
「えっ・・・。聞くって僕がですか?」
やはり、N社長には「聞く」という姿勢が少々欠けているようです。
実は先の調査機関の別調査では、リーダーの「自分の考えを周囲の人に魅力的に語る上司」という評価と、「自分の考えを伝えるだけでなく、部下の考えもよく聞いてくれる上司」という評価の相関性が非常に高いという結果も出ているのです。すなわち、リーダーが伝えたいことをスタッフがしっかりその真意まで受け止めることができるか否かは、伝えたことに対してスタッフがどう思ったか、どう考えるかについて、リーダー側に尋ねる姿勢、聞く姿勢が持てるか否かが大きく影響すると言うことを示していると言えるのです。
コミュニケーションは「話す」より「聞く」
私が初対面のN社長にぶつけた質問は、常々経営者の皆さんにお話ししているコミュニケーションの三原則に沿ったものです。
●コミュニケーションは量が質をつくる
●コミュニケーションはSKILL(技)よりWILL(気持ち)
●コミュニケーションは「話す」より「聞く」
この3つのどれが欠けても、経営者の意思は十分には社員には伝わりません。特に3番目、「聞く」ことの欠如は、ワンマンな経営者の皆さんには非常にありがちなことなので要注意なのです。
コミュニケーションの三原則の話に、「良いことを教えていただきました。反省を踏まえて少しずつやってみます」と話していたN社長。きっと効果が出ることと思います。コミュニケーションの三原則は、経営者に限ったことではなく、プライベートでの円滑な人間関係づくりや円満な家庭環境づくりにも共通して言えることです。年末に今年を振り返って、自分のコミュニケーションが三原則に沿って出来ていたか否か、ぜひ考えてみてください。皆さま、よいお年をお迎えください。(大関暁夫)