「えっ・・・。聞くって僕がですか?」
どうやら量は足りている様子。となると次に気になるのは、小手先で相手を懐柔しようとしていなかどうか。つまり熱意を持って伝える気持ちよりも、手を変え品を変え的なコミュニケーション・テクニックに走っていないかどうか、です。
「そんな器用さは持ち合わせていないですよ。僕はとにかく一生懸命、熱意を持って僕の想いを日々表面的な言い方を変えながらも伝えているだけですから。小手先のテクニックなんてとてもとても・・・」
実直そうで若くて何事にも一生懸命という社長の雰囲気からは、恐らく彼が話している通り、ストレートに熱を帯びて社員に語りかけている姿が目に浮かびます。
となると、残るはもう1点。一方的なコミュニケーションに偏っていないか否か。すなわちややもするとありがちな、一方的に「話す」に偏って、「聞く」というコミュニケーションを怠っていないかどうかです。リーダーとスタッフの間の「対話」を実現していくためには、「話す」と同等か、もしくはそれ以上に「聞く」を重視するぐらいのバランスが欲しいところなのです。
この点に言及すると、それまで自信ありげだったN社長の顔が少し曇りました。
「えっ・・・。聞くって僕がですか?」
やはり、N社長には「聞く」という姿勢が少々欠けているようです。
実は先の調査機関の別調査では、リーダーの「自分の考えを周囲の人に魅力的に語る上司」という評価と、「自分の考えを伝えるだけでなく、部下の考えもよく聞いてくれる上司」という評価の相関性が非常に高いという結果も出ているのです。すなわち、リーダーが伝えたいことをスタッフがしっかりその真意まで受け止めることができるか否かは、伝えたことに対してスタッフがどう思ったか、どう考えるかについて、リーダー側に尋ねる姿勢、聞く姿勢が持てるか否かが大きく影響すると言うことを示していると言えるのです。