部下を「その気」にさせるのが下手な上司の特徴

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   生活雑貨チェーン店G社年末恒例の、360度調査の季節がやってまいりました。部下が上司を評価するこの調査、人事評価に直結させるのではなく、管理者の部下への指示の出し方が適正であるか否かをみて、方向修正につなげる格好のチャンスでもあります。

   今回の調査シートを見てみると、数字が伸びない店舗の店長には「店長は本社から高い目標必達を指示されているせいで、スタッフに対して目標を必ず達成しろと毎日うるさすぎる。いくら言われても、言われるだけでは高い目標は全然達成できる気がしません」という類のコメントが複数寄せられていました。よくあるパターンです。

「必ずやれると自己暗示をかければやれるのです」

はあぁ~~~
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   以前読んだ書籍の中に、組織の目標達成に関する興味深い調査がありました。「組織が目標達成する確率は、目標数値の高い低いに関係なく、目標を達成できると思っている社員の比率に比例する」というのです。

   要するにどんなに高そうに思えた目標でも、社員の多くが「達成できる」と思って業務に従事するなら、その目標は達成できる確率が高い。逆にどんなに容易そうに見える目標でも、社員の多くが与えられた目標を「達成できる」と思わなかったり、あるいは目標達成に無関心であったりするなら、目標は達成できる確率が低いというわけなのです。

   確かに、これまでお付き合いしてきた取引先や取材先企業を思い返すと、この話は非常に的を射ていると思います。

   銀行時代の話ですが、取引先の中堅OA機器販売会社B社に顔を出し、社長に来年度の目標を尋ねて驚いたことがあります。「当社の最低目標は毎年、全営業所前年比プラス30%」であると。通常、既存取引先相手のルートセールスが中心になりがちなこの手の商売では、特殊要因がない限り個別営業所の目標はせいぜい前年比プラス10%がいいところ。しかしB社は、毎期高い目標を各営業所が軒並みクリアすることで店舗網を次々拡大。倍々ゲームに近い驚異的なペースで売上増加と営業エリア拡大を果たしていたのです。

   社長曰く、目標達成のコツはただ一言、「所長をその気にさせることに尽きる」と。「例え一見達成不可能にみえる高い目標を掲げても、『絶対に達成できるぞ』『絶対達成するぞ』という店長の「本気モード」に火を付け達成意欲を持たせて臨ませれば、確実に目標は達成できる」と断言していました。

   一見乱暴にも思える独自の目標必達理論の裏には、社長の経験談がありました。

「私は叩き上げの時代に、大手さんの地域独占の代理店ライセンスなんとか獲得しようと、大手さんから与えられた販売目標を自主的に2倍にして目標を置き換え、それを必ずクリアすることで優良商材の地域独占販売ライセンスを次々獲得して当社の基礎を作りました。必ずやれると自己暗示をかければやれるのです。カギはやれると思ってやるかそうでないか。やれると思えないと手抜きになる。やれると思えば、全力でありとあらゆる手法、ルート、人脈を駆使するようになり動きが全然変わってくる。そして、一度やれたらそれがまた自信になり、さらに高い目標にチャレンジしようという気持ちになるのです」

高い目標でも達成できるという実感を「具体性」をもって与える

   私は社長の目標必達理論は素晴らしいと思いながらも、高い目標を現場に与え続けて、どうして所長に「やれる」と思わせることができているのか疑問に思いました。そこで過去に現場の所長経験も豊富な同社の営業部長に、社長の目標設定に関する現場の受け止め方はどうなっているのか尋ねてみると、意外な答えが返ってきました。

「社長は一見、高い目標を現場に一方的に押し付けているかのように思われがちなのですが、実は日常的な所長との同行営業などを通じて所長以上に各営業所の営業実態を研究しています。加えて豊富な経験があり、自分が所長だったらという観点から『主要先はこの分野をこう攻めてみろ』、商材別では『この商圏ではライバルとの比較を見せてこう売ったら新規先に売れる』といったアドバイスをすることで、高い目標でも達成できるという実感を所長に具体性をもって与え、『その気』にさせ本気モードに火をつけるのです」

   営業部長の話から分かったことは、各営業所に高い目標を割り振った社長自身が、誰よりもまずそれを達成できる実感を持っているということ。そしてその実感の根拠を具体的道筋として示すことで、所長がその実感を共有できているということなのです。

   先の書籍の「目標達成確率は、目標を達成できると思っている社員の比率に比例する」の続きとして、「そしてその比率を高めるためには、目標設定者が目標達成に向けた道筋を具体的に提示できること」という文言があることを実感させられるお話でした。

   数字ありきの目標を提示してニンジン作戦に出てみたものの、毎度惨敗して途方に暮れる経営者や管理者をよくお見かけします。目標設定者自身がその達成を実感できない目標は、どんなニンジンをぶらさげてもまず届かないと思った方がよろしいでしょう。目標達成に向けては、社長自身が達成を実感できる具体策を社員と共有することがポイント。そのためには、現場に学ぶことを忘れた目標数字の独り歩きをさせないことが重要なのです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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