先日から話題になっている、テレビ局の「女子アナ内定取り消し」。ホステスのアルバイト歴を理由に、内定を取り消された女子学生が、入社を求めて裁判を起こした件です。さて、このコラムでも時々触れておりますが、私も学生時代に「キャバ嬢」を経験しました。なので、この件に関する世間の反応は気になります。特に今回は、男女関係なく、多くの人が、このニュースについて知りたがり、そして語りたがっているように感じたのです。
このモヤモヤ感の正体とは?
女子大生の主張によると、テレビ局側が「内定を取り消した理由」はハッキリしています。やや、直接的な言い方をすれば、「女子アナには清廉なイメージが求められるのに、彼女は清廉性のないホステスだった。しかも、そういうアルバイト経験を申告しなかったことは『虚偽申告』にあたる。取消は当然」ということでしょう。この主張に潜む「差別的な感じ」が、多くの人に直感的なイヤらしさを感じさせたのではないでしょうか。
ただ、こうした「理由」に、ちょっと「納得」してしまった人もいるかもしれません。「女子アナってやっぱり、イメージが重要だからね。内定取り消しは、仕方がないだろう。彼女は可哀想だけど・・・」。でも、それを言おうものなら、「あなたも女性差別主義者なんですね」と、白い目で見られる可能性は大です。
なぜなら、そういう人は、男性と女性で、押し付けられるルールが異なる「ダブルスタンダード」を肯定していることになるからです。「水商売歴で差別される女子が多い一方、キャバクラなどに通っている男性は、女性ほどには差別されない」「女らしさを売るのは『清廉性に欠ける』が、それを『買う』男性は『清廉性』を問われない」。そんな「ダブルスタンダード」を肯定はできない、でも、どこかモヤモヤする感じが残るという人もいるでしょう。このモヤモヤ感の正体とは何でしょうか。
「女を売りにする」こと
「ホステス歴があるから雇えない」という主張は、私たちの中にあるドロドロしたホンネを刺激します。夜のお店で働く女性への差別がいけないことは分かっているけれど、自分の中にもそうした「差別心」がまったくない訳でもない――それを刺激されたようで、モヤモヤする人が多かったのです。
この、さっぱりしない感じを、「それでいいのです」と肯定するような記事が、フェイスブックで1万件以上シェアされました。藤島佑雪氏によるコラム、「銀座ホステス緊急寄稿:日テレ女子アナ内定取り消され事件、わたくしこう思いますの」(GQJAPAN 、2014年11月25日)です。銀座のホステスとして働く彼女は言います。
「ホステスだって立派な職業。別にいいじゃないかとおっしゃるみなさまに問いたい。じゃあ、履歴書やお見合いの釣書に積極的に書くべきですか?書いたらプラス評価になりますか?」「アナウンサーやモデル、芸能人になりたいのに、水商売に手を染めちゃう子は脇が甘い」。
ツイッターでは記事に対し、「素晴らしい。こういうのが『正論』だ」と、共感を示す人も多いようです。現役ホステスが自ら「職業差別は仕方ないと受け入れている」と言ったからこそ、説得力をもって支持された側面はあるでしょうし、彼女の主張が、「差別はいけないよね、でも差別しちゃうよね」という、自分たちの揺れるホンネを「免罪」してくれたと受け止めた人がいた、という部分もあるのではないでしょうか。
私はキャバクラで働いてみて、「女を売りにする」ことが、この社会の至るところで、当たり前に行われていることを実感しました。ホステス業も、テレビで視聴者に笑いかける女子アナも、女性としての魅力をお金に変えるという点では同じだと私は思います。ところが、ホステスは差別され、方や女子アナは、清廉なイメージでもって、お茶の間のアイドルになる。その落差に違和感を覚えつつも、どこかで納得してしまう。私も含め、そんな人たちのモヤモヤを刺激したからこそ、「女子アナ内定取消」は、人々の関心を惹きつけてやまないのでしょう。(北条かや)