「賞与下がった」理由説明は不要か

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   世間は年の瀬を迎え、今年も賞与支給のシーズンになりました。景気の加減は上向きなのか否か判断は難しい部分もありますが、少なくとも一時期の「底」は脱した感が強く、「底」を脱したからこその話も聞こえてきました。

   社内研修でお付き合いのあるIT機器商社D社。顔みしりの社員が、私にこんなことを質問してきました。

「賞与評価のフィードバックをして欲しいと思っているのですが、してもらえないものでしょうか。業績が悪い時期は、がんばったところで『業績が低迷しているので申し訳ない』との社長の説明が全てを物語り、必要以上にフィードバックを求めても仕方ないと思ったものですが、業績が上向き加減の今期は、賞与の額に自分の評価がどのように反映されているのかぜひとも知りたいと思いまして」

賞与評価とフィードバックの実情

ボーナス、下がったわぁ~
ボーナス、下がったわぁ~

   なるほど、これまで業績低迷を理由に何基も連続で抑え気味の賞与に我慢を強いられてきた従業員の本音として、今期もらえる賞与がどのような評価に基づくものであるのか、教えて欲しいというのはごもっともなお話です。

   一方で、中小企業では賞与は社長の裁量ひとつで決められているケースも多く、社員に聞いたところではD社も、個々の実績は社長が把握していながらも具体的評価の見えない支給を長年続けてきているようでした。そこでまず、賞与評価とフィードバックの実情をF社長に聞いてみることにしました。

   「実績は上長から報告させているので、それをもとに評価はしている。各役職の平均支給額を決めて、良くやっている者に数万円を上限に上乗せ、努力が必要なものからは逆にマイナスする(マイナスは上限なし)」のが基本パターンであると。

「フィードバック?多く支払った者には、折を見て『少し上乗せしたからがんばれよ』と言っている。下げた者は言わなくても気がつくものだよ。だから特に話はしてない。減った金額を見てがんばるヤツはがんばる、がんばらないヤツはいずれ消えて行く」

話上手とコミュニケーション上手は別物

   なるほど、いかにもオーナー企業にありがちな旧時代的賞与評価とフィードバック状況ではあります。なぜ、上乗せした者にはそれを伝え、減らした者には伝えないのでしょうか。

「理由は簡単。経営者は投資に対しては効果を求める。上乗せ分は言ってみれば評価した者への投資だから、投資をより効果的にするために評価しているぞと伝える。逆に減らした者は投資をしていないから、無理に伝えなくともいいのだよ。それと・・・」

   やや言いにくそうにしながら、社長が続けました。

「マイナス評価は言いにくいじゃないか。言われる方だって気分が良くない。そりゃ、お互いのために言わぬが花ってものだよ。金額を見て、『あーこんなに減ってしまってがんばらなくちゃ』と思ってくれればそれでいいと思うよ」

   F社長はシャイなのですが、私はこの話を聞いてシャイということ以上にコミュニケーションが下手な社長だなと思いました。一方的なコミュニケーションしか思い浮かばないことに、F社長のコミュニケーションの下手さが表れています。

   つまり、相手にとってのマイナス情報を一方的に伝えようとするから、それは自分にとっても相手にとってもマイナスでしかないと思っている。シャイな人ほどコミュニケーションは一方的になりがちです。F社長は話し上手で有名な方なのですが、話上手とコミュニケーション上手は別物であるという典型的な例でもあります。

フィードバックの目的は「対話」すること

   一方的に情報を伝えるのではなく、「対話」をすることこそがフィードバックの目的です。「こういう評価だけどどう思うか」「ここをこう改善したら評価は上げられると思うんだけど、自分ではそれができそうか」「他に評価をあげるために何ができると思うか」等々。一方的に伝えるのではなく「対話=コミュニケーション」であり、フィードバックに必要なものなのです。

   私は、社長が以前していたこんな話を思い出しました。ある取引先への他社との競合コンペで、D社は付随サービスを付けることで実質的に破格の価格を実現し落札確実と思われたのに、蓋を開けてみたら失注したという「事件」がありました。先方からの理由説明は一切なし。F社長は「勝ち負けが問題なんじゃない。理由は欲しいだろ、理由は。理由が聞ければ次に向けての対策も打てる。もうあそこへの提案は金輪際しない!」と憤慨しました。

   社長は私の話に、「それとこれは同じ話かい・・・」と多少困惑気味でしたが、一定の理解は示したようには見えました。

   先週、D社の総務部長から「賞与の評価に入ったが、フィードバックは年明けでもいいか」という質問が来ました。私に聞くように、と社長から言われたそうです。詳しい状況をたずねてみると、社長が新年早々、全員に年初の各自の抱負を聞きながら個別面談をして、その際にそれとなく賞与の事も触れたいと。シャイな社長らしいとっかかり方ですが、なかなかよろしいかと思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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