弁護士解説 合意なしの「不利益変更」はできないのが原則
退職金で何かの支払いを予定している人も多いと思うので、もらえると思っていた退職金が、突然もらえなくなったら納得いきませんよね。Aさん達の心中をお察しします。
ところで、労働基準法には退職金請求権を直接根拠づける規定がないため、退職金を請求するためには、就業規則、労働協約、労働契約などの根拠が必要です。今回のケースでは、入社時の雇用契約書には「退職金有」と記載があり、就業規則で具体的な計算方法が記載されていたとのことですから、少なくとも、Aさんの入社時には退職金請求権があったことになります。
会社は、途中から就業規則を変更して退職金制度を廃止した為、退職金を支払う必要はないと主張していますが、この主張は認められない可能性が高いでしょう。
会社は、原則として、労働者と合意することなく就業規則を変更し、労働者にとって不利益な条件に変えることはできません。例外的に、就業規則の変更が合理的であり、変更後の就業規則が周知されている場合などの厳しい条件を満たせば、労働者に不利益になったとしても就業規則を変更することができます。そして、変更の合理性は、労働者が被る不利益の程度や変更の必要性などを総合的に考慮して決められます。
今回のケースで、退職金を突然不支給にすることは、労働者が被る不利益の程度が極めて大きいです。会社の業績悪化の程度にもよりますが、就業規則の変更の合理性が認められないと判断される可能性が高いと思います。
具体的な対処法ですが、まず、退職金請求権の根拠となる資料を確保することが必要です。今回のケースは、雇用契約書や変更前の就業規則の写しを残しておくのが最低限の準備になります。また、退職金請求の時効は5年ですので、Aさんは退職後5年以内に退職金請求訴訟などを提起して、就業規則の変更の合理性を争う必要があります。裁判は専門的であり、お一人では難しいと思いますので、弁護士に相談することをお勧めいたします。
今回のケースは、会社が不当である可能性が高いので、屈せず権利を主張していただきたいところです。(文責:「フクロウを飼う」弁護士 岩沙好幸)
ポイントを2点にまとめると、
1:就業規則、労働協約、労働契約などに退職金支給の根拠があれば、労働者に退職金請求権がある事になるので根拠となる資料を残しておく必要がある。
2:例外はあるが、会社は、労働者と合意なしで就業規則を変更し、労働者の不利益になる様な労働条件に変える事はできない。