日本の「おもてなし」賛美の勘違い 「ガラパゴス」だし自由度がない

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   旅館のおもてなしは素晴らしい。おもてなしは凄い。ホテルのサービスよりぜんぜん凄い。これが日本の文化――

   なんだか日本のサービスを褒めちぎって持ち上げる言説をここのところ多く見かけるが、これは昔から変だと思っていた。もう私の連載は炎上が常なので、この際はっきり書いて断言しよう。はっきりいって日本のおもてなしのサービスは、とんでもないガラパゴスだとおもう。

日本人以外のひとは間違いなく戸惑ってしまう

「おもてなし」狂想曲!?
「おもてなし」狂想曲!?

   何故か?

   朝のチェックアウトは10時。まだ眠たいままで旅館を後にしないといけない。食事は、部屋出しのところもあるが、大部屋が食べることもある。しかも何時から何時という幅ではなく、6時半といったスタート時間が決まっていることもある。

   メニューは選択肢がなく決まったセットコースだけ。選べるのはお酒の種類くらいだが、それもビールに日本酒が数種類。ワインにいたってはほとんど種類がない。

   それから、そもそもの話、レストランが1軒しかない。普通ホテルには2つか3つのレストランがある。

   辟易するのは、朝食の間に勝手に布団が片付けられていることだ。部屋に帰って一眠りしようと思っても、片付けられてしまっていて、座布団に寝るしか無い。

   日本が誇るおもてなしどころか、どローカルの、ガラパゴスな珍妙なサービスでしかないではないか。これでは、日本人以外のひとは間違いなく戸惑ってしまう。

   「日本は難しい」と。

   私の意見では、世界中を相手にするには、最低でも、これらのサービスをインターナショナルなホテルのものに揃える必要があると思う。チェックアウトは12時にして、食事の時間も自由にして、アラカルトも選べるようにした方がいい。表記は最低でも英語を併記し、英語を喋れるひとも常駐させる。

「啓蒙を一生懸命行う」は負け戦だと思う

   日本のおもてなしは、自由度がない。

   たしかにそのおもてなしのフォーマットを知っていて、それに合わせて受け身になれば、丁寧なサービスを受けられるのかもしれないが、フォーマットを知らないひとや、フォーマット以外のことがしたいひとにとっては、とても窮屈に感じるだろう。

   たしかに、セットされたものの完成度は折り紙つきなのだろうが、フォーマットをしらなければ楽しめない。

   そういうと、こういう反論がくる。そのフォーマットを外国人に理解させろ、それが日本の文化であり、そこがわからなくては、日本式サービスはわからない。

   たしかに仰るとおりかもしれないし、そういう啓蒙を一生懸命行うという方向もあるかもしれないが、これは負け戦だと個人的には思う。

   わざわざ旅行先の文化やフォーマットを勉強して、それに合わせて旅行するほどのひとは殆どいない。我々だって、世界を旅行するのに、各国で細かいマナーが違うのを事前に勉強したりしない。共通なフォーマットの上に、それぞれのお国柄が見えるくらいで十分だ。

   同じように、多くの外国人にとって必要なのは、日本のしきたりの勉強をしなくても怒られないインターナショナルなフォーマットで、そのうえで日本文化も体験できるような施設だろう。

   一方、日本文化好きな日本マニアはすでにいるし、そういう人は日本語を勉強して、日本語しか使えない秘境の温泉につかって愉しめばいい。

   独自のハイコンテクストな文化を、優しく噛み砕いて説明してわかってもらおうという方向性は行き詰まる。これは、独自のOSの操作性を良くして勝負しようというようなものといっしょだ。いくら操作性が良くても、日本に来るためだけに独自OSの操作を学ぼうという人はいない。OSは揃えておかないといけない。OSからして独自だと、もはや独自性を出す前でおわってしまう。

   行うべきは、ローコンテクストのインターナショナルなホテルフォーマットのなかに、日本の文化を昇華させて楽しんでもらうようにすることだ。(大石哲之)

大石哲之(おおいし・てつゆき)
作家、コンサルタント。1975年東京生まれ、慶応大学卒業後、アクセンチュアを経てネットベンチャーの創業後、現職。株式会社ティンバーラインパートナーズ代表取締役、日本デジタルマネー協会理事、ほか複数の事業に関わる。作家として「コンサル一年目に学ぶこと」「ノマド化する時代」など、著書多数。ビジネス基礎分野のほか、グローバル化と個人の関係や、デジタルマネーと社会改革などの分野で論説を書いている。ベトナム在住。ブログ「大石哲之のノマド研究所」。ツイッター @tyk97
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