テレビは年末総選挙の話題で持ちきりです。ある評論家が、こんなことを言っていました。「インターネット選挙が解禁後初の衆院選。各陣営手探り状態なだけに、ITに対する積極的な活用の有無が見えないところで勝敗を左右することもあるかもしれません」。
ITの活用が勝敗を左右するのは、最近は企業運営でもよくあることです。以前の話ですが、大手の地方進出に必至に対抗していたエリア居酒屋チェーンB社の店長が嘆いていました。
「ここに来て急激な劣勢に立たされています。原因は大手のIT化。ファミレス化しつつある居酒屋の新しい戦略として、子供を使った顧客囲い込みを始めたのです。携帯電話を使ったゲーム要素を盛り込んだ割引サービスや、店内電子メニューによる遊び感覚のオーダーシステムが子供たちにウケて、そちらに客を取られています。うちの社長は若いのにITアレルギーで、IT化はカネがかかるとの先入観から取り合ってくれないのです」
B社はほどなく大手資本に身売りし、その名前は完全に消えました。
「このソフトを使えばこういうことができるはず」が分かるレベルで十分
やはり数年前の話ですが、美容院を複数店経営するS社の役員からこんな愚痴を聞かされたことも。
「カリスマじゃない美容院は、競争激化でサービスの質を落とさずにいかにコストダウンをはかるかが重要です。今は、IT化が欠かせない。顧客管理、メールを活用した予約システムや情報提供での囲い込み、さらにはスタッフのローテーション管理や資材の発注管理等、効用はかなり見込めるので社長に進言しているのですが、理解してもらえない。戦前生まれの女性社長には無理もない話かもしれませんが、導入メリットのイメージが出来ないみたいです」
5店舗あったS社の店は現在2店舗。競争に負けてスタッフに退職を促し、規模縮小を余儀なくされ、家族経営的に昔ながらの「パーマ屋さん」に戻って細々やっているようです。
高度成長期のような、黙っていても右肩上がりに業績が上昇するような時代はもう二度と来ないでしょう。経営者はどんなに小さな組織であろうとも、ビジネスの最先端で仕事をしなくては生き残っていけない時代なのです。
その最たる知識がIT技術。現代における経営者たるもの、最低限のIT知識や関心は持たなくてはいけないでしょう。これは前回取り上げた「仕組み化」の問題とも密接にかかわっています。今の時代、ITの知識なしに効果的な仕組みを作ることはできない、と言っていいからです。
もちろん、経営者が自身でシステムを作る必要はありません。中には、「俺が社内で一番ITに詳しいんだ」と言わんばかりに、一所懸命にいろいろなITを駆使した仕掛けを作りたがるオタク系経営者もいますが(なぜかこのタイプが2代目に多いのは、先代に対するコンプレックスの裏返しなのでしょう)、それでは本末転倒です。必要なことは、「この技術、このソフト、このアプリを使えばこういうことができるはず」ということが分かるレベルで十分です。
ブラック職場回避のヒントは、こんなところに
一方、「ITのことは分からない。でも、重要性は認めているからシステム担当をおいて任せているからそれでいいだろう」と言う経営者がいますが、先の例のようなIT拒絶でない分だけまだマシですが、本当はこれでもまずいのです。「どこをどのような技術を使って、どのように効率化、利便化するべきか」の判断は、間違いなく経営者の仕事だからです。プロのシステム屋さんと対等に話が出来る必要はないとしても、ある程度の知識を持ってプロのアドバイスを受けないことには投資の妥当性が判断できず、重要なIT投資でも単純に「高いからやめ」となりかねないのです。
基本的に老若男女問わず経営者たるもの、常に勉強を続け新たな知識を入れることがその責務です。ITはひとつの代表例ですが、自身にとって畑違いの知識であろうとも、新しい知恵や技術に対して拒絶感を感じるようであるのなら、従業員を不幸にしないために経営者のイスは速やかに他の者に譲るべきであるとすら言えるのです。
こんなこともありました。
先日知り合いのイタリアン・レストラン経営者から3店舗目のオープン案内をもらい、内覧会に顔を出しました。タブレットがレジを兼ね、スタッフ一人ひとりはスマホで注文を受けていました。挨拶に回られた支配人にこの点をたずねてみました。
「すべて社長の発案です。既製品のアプリをベースにしているので、初期投資は安価でバージョンアップも容易。加えて意外だったのは、スタッフのモチベーションアップ。業界最先端の職場で働いている意識が根付くのでしょうか、みんなイキイキやっています」
確かにスタッフがスマホ片手にイキイキと働く姿は、アップルストアのそれを思わせるものでもありました。経営が新しいことに積極的に取り組む姿勢を示すことは、単にサービスの高度化や業務の効率化だけでなく、組織活性化の点からもプラス効果が大きいのです。ブラック職場回避のヒントは、意外や意外こんなところにあるのかもしれません。(大関暁夫)