弁護士解説 移動中に「指揮命令下」にあるかどうか
ほとんど同じぐらいの時間を拘束されているにもかかわらず、Bさんは残業代がもらえ、Aさんは残業代がもらえないとなると、Aさんが不満に思うのも当然ですよね。
「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下で、労働力を提供した時間」のことをいいます。
実際に働いている時間はもちろんのこと、作業の準備や後処理を行っている時間、待機している時間も労働時間に含まれます。
今回のAさんの場合ですが、取引先などで業務をしている時間は、当然労働時間になります。では、電車での移動時間はどうなるのでしょうか。この場合は、移動時間中に物の運搬などの業務が命じられているかなど、会社の指揮命令下にあるか否かが重要な判断要素になります。
Aさんは、特に会社から荷物を運ぶなどの指示を受けておらず、単に移動しているだけのようです。そうすると、会社の指揮命令下にあるとは評価しにくく、Aさんの移動時間は労働時間に当たらない可能性が高いでしょう。
これに対して、Bさんは、社用車で会社の荷物を運びながら移動しているようです。そうすると、移動中も会社の荷物を運ぶという業務を行っているため、Bさんの移動は労働時間にあたると評価される可能性が高いと言えます。
一般的に、移動時間が労働時間に含まれないことが多いのは、移動時間中は、ある一定の制約はありますが、睡眠、読書、食事など自由にその時間を利用できるからです。Aさんも、移動時間中、何かしらの業務を行っており、会社の指揮命令下にあることを立証できれば労働時間が増え、残業代を請求できるかもしれませんね。
なお、出張のように社外で仕事をする場合は、会社は労働者の労働時間を正確に把握し、算定することが困難となります。このような場合は、実際に出張中に働いた時間にかかわらず所定労働時間を労働したものとみなすという「事業場外みなし労働時間制」という制度があります。この制度が適用されると基本的に残業代を請求することが難しくなりますが、事業場外で仕事をする場合でも、会社からタイムスケジュールが与えられたり、携帯電話等で随時上司の指示を受けながら仕事をしたりする場合は、労働時間を算定することができるので、事業場外みなし労働時間制の対象とはなりません。(文責:「フクロウを飼う」弁護士 岩沙好幸)
ポイントをまとめると
1:出張などの移動時間中にも業務を命じられているなど、指揮命令下にあれば、労働時間に当たると判断される可能性が高い。
2:出張など事業場外にいても、会社が労働者の労働時間を正確に把握できる状態であれば、 残業代などを請求できる場合もある。
・・・と、以上で法律のお話はおしまいです。
今回は少し続きがあります。連載タイトルの通り、「フクロウを飼う弁護士」である私、岩沙が実際に飼っているフクロウの写真を1度ご紹介したいと思っておりました。
私が両手で抱えているのが「コキンちゃん」です。もうかわいくて、かわいくて・・・。名前の由来は、「コキンメフクロウ」という種類の名前からつけました。
次回からも、「コキンちゃん」ともども、よろしくお願いします。