介護職員や保育を担う人材が不足しているというニュースは、よく耳にします。今回は、そんな福祉系の現場と、「キャバクラ」で働く女性たちが、一部重なっているというお話です。なぜ、若い女性たちは、介護士や保育士を辞めて、キャバクラで働くのか?掘り下げると、根深い問題が潜んでいることに気付かされるのです。
ずっと子供を見て「気を張っている」感じ
拙著『キャバ嬢の社会学』(2014年2月)の元となる論文を書くため、キャバ嬢たちにインタビューした際、「保育士を辞めて、キャバ嬢になった」という女性がいました(仮に、真奈美さんとします)。その理由は、保育士の仕事が、やりがいはありつつも、あまりにハードワークだったからだそうです。
「勤務時間中、ずっと子供を見て『気を張っている』感じ。『休憩』って言っても、ずっと掃除や作業に追われている。お昼ご飯も、子供と一緒に食べるから、息抜きはできない。何というか、自分を守ってくれるものが何もないんですよね」(真奈美さん)
「自分を守ってくれるものがない」とは、どういうことか聞いてみると、子どもの命を預かる「責任」が重すぎるという意味のようでした。
それに比べて、「大人の男性」相手のキャバクラは、責任感が「まだ軽い」し、「勤務中に『息抜き』の時間が取れるのも大きい」(真奈美さん)。私も、キャバクラに勤務してみて感じたのですが、指名が取れて、気の合うお客さんとおしゃべりしている間は、ある意味『楽しい』のです。繁忙期でなければ、一息つく時間もあります。夜遅くまでの仕事も、慣れれば何とかなるもの。真奈美さんは、「保育士と違って、残業もないから、キャバクラの方がむしろ、時間には『きっちり』してると思う」とまで言っていました。
同じように人を世話するなら、より多くのお金が貰える方がいい......と言えば、身も蓋もないかもしれません。しかし、子供の命を預かり、責任が重い保育士の仕事に見合う賃金が得られないことが、彼女をキャバクラ嬢に転身させた理由なのは確かです。
キャバ嬢を辞めた後、福祉の仕事に就いてもらえるか
福祉系の仕事をする若い女性の一部が、キャバ嬢になっているという事実は、三浦展氏の『女はなぜ、キャバクラ嬢になりたいのか?』(光文社新書)、『ニッポン若者論』(筑摩書房)などでも、指摘されています。
先日、念願叶って、三浦氏と対談をさせて頂く機会があったのですが、福祉の仕事と「風俗産業」の共通点というお話になりました。
キャバクラで、酔っ払った男性の話を聞くのも、保育園で子供の面倒を見るのも、介護施設でお年寄りの世話をするのも、本質的には「ケア労働」であり、「感情労働」です。
ただ、現状では、「介護士を辞めてキャバ嬢になる」人はいても、「キャバ嬢を辞めた後、資格を取って介護士になる」人は、あまりいないようです。キャバ嬢を専業にしている女性の多くは、30歳近くなると、ネイルアーティストなど美容系を目指したり、専業主婦になりたいと願ったりするパターンが多いのです。
三浦氏は、「公然とはできないが、若い女性がキャバクラ卒業後、福祉系に移行できるようなシステムを作るべきだ」と仰っていました。対人コミュニケーション能力に長けた彼女たちは、福祉系の現場でも活躍できるはずだからです。
先の真奈美さんは、保育士の資格を活かして、「キャバ嬢を辞めたら、また昼の仕事に戻ると思う」と話していました。しかし、経済的な不安があるようで、「でも、保育士はお給料が低くて、1人では生活していけない。なるべく早く、誰かと結婚しなきゃ......」とも。
現状では、資格を持っている真奈美さんのような女性でも、福祉職で経済的に自立できるかどうかは、微妙なところ。「キャバクラ卒業後の福祉系への移行」を促すためには、介護士や保育士の賃金を(キャバクラ並みとまでは言わないまでも)、せめて他の正社員と同じような水準まで、引き上げる必要がありそうです。(北条かや)