会社に「指導料」「備品代」払うのは、ブラックどころか「とても合理的」

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   なんでも、毎月の給料から「上司への指導料」だの「デスクなどのオフィス家具使用料」だのを会社に返納させるすごい会社があるとネットで話題になっているらしい。筆者はそんな会社について聞いたことがないし、法的にも色々問題があるのでネタだとは思うけれども、これはこれでとても面白いアプローチだ。


   ネットでは、超絶ブラック企業だなんだと叩かれているけれども、実在するならむしろ良心的な会社だというのが筆者の意見だ。いい機会なので筆者がそう感じた理由を簡単にまとめておこう。

「世の中にただ飯はない」という価値観

   恐らく、問題の「会社」は、返納させる分の金額をあらかじめ上乗せして支給していると思われる。そうでなければ、こんな人手不足の売り手市場で、わざわざそんな割に合わない会社で働きたいなんて誰も思わないだろう。

   たとえば、従業員一人を雇うためのコストとして30万円という上限のあるA社とB社があるとする(わかりやすくするために社会保険料や税金は除いて考える)。


   A社は新人に対し、20万円というごく普通の基本給を支払っているけれども、彼の使う備品や光熱費、そして上司や先輩社員が育成に費やす時間的コスト、時間外手当も含めると、だいたい30万円ほど負担していることになる。

   一方のB社は、とりあえず彼に30万円ほど給与として支払い、後から光熱費や育成コスト、時間外手当名目で10万円ほど(あくまで自主的に)返納させている。


   結果的に見れば、どちらも手取りは変わらない。だったらそんな面倒なことはせずに、最初から引くものは引いて支払ったらどうかと多くの人が思うはず。でも、B社の新人には、これから社会人として働いていく上で、何よりも貴重な習慣が身につくはず。それは「世の中にただ飯はない」という価値観だ。


   「そんな当たり前のことは知っている」と反論する人も多いだろうが、本当にそうだろうか。職場で使っている端末や文房具を「自分の稼ぎで買ってもらっている」という感覚で使っている人は、どれだけいるだろうか。むしろ、会社の金で買ってもらったもんだから使い倒せばいいや、くらいの人が多数派ではないか。

「気付き」を与えてくれる良いきっかけに

   時間外手当はしょせん自分たちの財布から出ているものだから、出来るだけ仕事は効率的にこなして無駄な残業は減らすべきだと理解している人はどれだけいるだろうか。ホワイトカラーエグゼンプションに脊髄反射で反対するサラリーマンの多さからすると「残業代は青天井で天から降ってくる」と思っている人がまだまだ多いということだろう。


   さらに言えば、自営業者並みに「受益と負担」を意識しているサラリーマンはどれだけいるだろうか。厚生年金保険料を「労使折半」という看板に騙されて17%も負担させられた上、国民年金未納分も肩代わりさせられている現実からすれば、多くの人は無頓着に天引きを受け入れているように見える(ちなみに他国では自営業者は労使折半の雇用労働者の倍の保険料を納めるのが通常だ)。


   B社で5年も働けば、きっと会社の備品は無駄に使わず、無駄な残業もせず、最大限効率的に働くことを常に心がける優秀なビジネスマンに育っていることだろう。そういう人材はどこに行っても必ず成功するものだ。


   世の中には「法律で決めさえすれば、労働者の権利は実現できる」と考える人もいる。でも、それはおとぎ話にすぎない。リアル社会では、労働者は自分の生産性に応じてしか報われない。だから、いっぱいお金が欲しかったら、自分で努力して優秀な人材になるしかない。


   たぶん元記事はネタだと思われるけれども、そういう気付きを一人でも多くの若いビジネスマンに与えてくれる良いきっかけになったと思うので、この場を借りて作者には感謝しておこう。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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