デキすぎるトップの弱点 だから部下育成に失敗する

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   本業は保険屋さんですが企業経営者のアドバイザリーもしているOさんから、「知り合いのとても優秀な若手経営者に、ぜひ一度会っていただきたい」とのお話をいただき、彼の保険クライアントであるIT関連ベンチャーC社のN社長とお目にかかりました。

   N社長は東大卒、情報産業大手企業でIT業界を担当し30代で独立。自ら考案したビジネスモデルをIT化してこれが当たり、一気にベンチャーキャピタルを始めとした投資家注目の存在となりました。現在36歳。投資家の支援もあって、2年後の上場を予定しているとか。目下の悩みは、「上場企業にふさわしい幹部社員のレベルアップ」だと。

「自社の社長をほめたたえる幹部社員の表情」に違和感

頭は良いんだけどな・・・
頭は良いんだけどな・・・

   N社長が我々を相手にした会話は、とにかく論理的で無駄なくそつなく分かりやすい。私が繰り出す質問にも明確なミッションやビジョンを示しながら丁寧に解説してくれました。また、我々との話の合間に時折入る部下からの相談には、的確かつ明快な指示を出し、リーダーシップも申し分なしと思わせるに十分でした。

   多忙な社長との社長室での面談を終えると、Oさんがあらかじめセットしていたのか、応接に場所を移し彼の顔見知り幹部社員数人を順次呼んで、社長評を聞くと言うセッションに移りました。

   彼らが口々に答える社長評はどれも、「組織のトップとして、高度で理想的なパフォーマンスをしてくれ尊敬している」「社長の戦略や判断は常に的確で、信頼に足るものである」などの、社長に対する美辞麗句のオンパレードでした。

   しかし私は、何人かの話を聞くうちに「おや?」と不思議な違和感を覚えるようになったのです。自社の社長をほめたたえる幹部社員の表情が、皆決して明るくない。どこかさめているようでもあり、言葉の抑揚に乏しくなぜか人ごとのように聞こえていることに気がついたのです。

平気で自己の弱みを見せるところが、2人の「違い」

   幹部社員との面談を終え、私がそのことをOさんに告げると、彼はこう言いました。

「やっぱり気がつきましたね。僕が見て欲しかったのはそこ。N社長がもの足りないと言う彼ら幹部社員の実態を見て、大関さんだったら社長にどういうアドバイスをするのか聞いてみたいと思ってご足労いただいたってわけ」

   随分と手の込んだ、協力要請もあったものです。

   私はC社の実態を見て、銀行の本部勤務時代につかえた二人の上司のことを思い出しました。同じ部門の部長席に相次いで座った京大卒のK氏と東大卒のY氏。二人のタイプは全然違いましたが、共に業務上の手腕、統率力共に申し分なく、組織リーダーの資質としては甲乙つけがたい存在ではありました。

   しかし部門のまとまりや活性化度合いでは、K氏が部長を務めた時期よりもY氏の部長時代が上回り、部門が次々と打ち出した戦略的な施策の量や質では圧倒するほどの違いがあったのです。それはなぜか。

   K部長は、言ってみると先のN社長と同じ、完璧さを基本として的確かつ詳細な指示を積み重ねて部下からの尊厳を集めるタイプ。一方のY部長は、同じレベルの優秀さを持ち合わせていながら、時折平気で自己の弱みを見せるところが絶対的な違いでした。

   Y部長が見せる弱みとは、「こういう分野の事は俺にはよく分からん。悪いな、とりあえず任せるからしっかりやってくれ」とか、「営業がらみの案件は苦手だ。君らでうまく関連部門と調整してくれ」といった類の言動です。部下たちは、「しょうがない部長だな。部長の仕事までやらされたんじゃ、こっちが忙しくなってたまらん」などと言いながらも、これが部下のモチベーションを巧みに持ちあげることも多く、後から思うに部内のまとまりや活性化は、このY部長の弱み作戦に後押しされたものだったのは間違いないのです。

トップの優秀さは人材育成においてはもろ刃の剣

   デキすぎるトップは、尊敬の念は集めながらもややもすると遠い存在に感じられ、何事においてもかなわない存在だと、その指示で動くスタッフとの関係は絶望的なほど距離があるのではないでしょうか。優秀なトップが時折苦手な点や失敗を時折見せることで、スタッフにトップをフォローすると言う参加意識が生まれ、チームのまとまりや活性化と共にスタッフの成長にもつながることを実感したのです。

   カリスマトップとスタッフの絶対的な実力差が部下育成を阻んでいるケースは、中小企業にもありがちな話でもあります。トップの優秀さは人材育成においてはもろ刃の剣になりうると、気がついていない人も多いのです。

「プライドの高いN社長だからね。上場までの間にそこの部分を、どう理解してもらったらいいのか難問だな」

   私の話を聞いたOさんは、一層悩ましげでありました。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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