「それ、昨日も教えたよね?」の一言で部下がうつ病に? わたし、訴えられるのでしょうか・・・

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弁護士解説 「業務による強い心理的負担」か、業務指導の範囲内か

   Rさんのこと心配ですね...。また、あなたも責任を感じ始めているようですが、自分を責める思考になるとあなたまで体調を崩しますので、まずはほうじ茶なんかで、ホッと一息ついてから回答にいきましょう。

   今回のケースのポイントは、Rさんがうつ病の診断を受けた場合、その原因が、あなたの発言など仕事による強いストレスによるものか否かです。これが認められると労災と認定され、Rさんは会社や、ストレスを与えたあなたに対して損害賠償請求をすることができる可能性があります。

   労災か否かの判断は難しく、個別具体的な事情によりますが、厚生労働省は精神障害の労災認定要件として以下のものをあげています。

(1)認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負担が認められること
(2)業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

   今回のケースでいうと、あなたの「それ、昨日も教えたよね?メモしてほしいんだけど」との発言が、「(1)の業務による強い心理的負担」にあたるか否かが問題になりますね。あなたがRさんに対して正当な理由もなく日常的にこのような発言をしていれば、「業務による強い心理的負担」にあたる余地はあるでしょう。しかし、1回限りのこのような発言は、業務指導の範囲内である指導・叱責にあたり、「業務による強い心理的負担」にあたらないと考えられます。

   また、前職を辞めた理由がうつによる体調不良で、仮に、まだフルタイム勤務が可能なほど回復した状態ではなかったのだとしたら、今のうつ病は「業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病した」といえるので、(2)の要件も満たしません。

   具体的事情をよりくわしく聞かないと判断は難しいのですが、基本的に今回のケースは(1)、(2)の要件を満たしていないので、労災でない可能性が高いと思います。Rさんからの会社やあなたに対する損害賠償請求は認められない可能性が高いです。したがって、Rさんがうつ病と診断されても、心配する必要はないでしょう。

   部下がうつ病になってしまったら上司の自分のせいではないか、と心配になる気持ちはわかります。しかし、よほどヒドイことをかなりの頻度で繰り返していないかぎり、精神疾患が労災と認定される可能性は少ないのが実情です。今はまだ訴訟のことは心配せず、現状のRさんができる範囲の仕事について、Rさんとじっくり話し合うのも良いかもしれません。(文責:「フクロウを飼う」弁護士 岩沙好幸)


   ポイントをまとめると、

1:労災と認定されるためには、発病前の6か月間に「業務による強い心理的負担」があったことが認められる必要がある
2:前職でのうつ病が継続している状態などの場合は、「業務以外の心理的負荷や個体側要因による発病」ともとらえられるため、労災が認定されない可能性がある
岩沙好幸(いわさ・よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業後、首都大学東京法科大学院から都内法律事務所を経て、アディーレ法律事務所へ入所。司法修習第63期。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物が好きで、最近フクロウを飼っている。「弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ」を更新中。編著に、労働トラブルを解説した『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。
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