小渕優子・経済産業相が、自身の関連政治団体の不透明な収支を巡ってマスコミ、野党、世論からの厳しい追及を受け辞任しました。小渕さんはご承知の通り、小渕恵三元首相の急逝を受けてその後を継いだ実質二世議員です(祖父も国会議員ですが)。
今回の一件は、報道一般では「政治とカネの問題」と言われておりますが、個人的には企業経営にも共通するリスクという観点から、もう少し深い問題があるように思っています。
「ありがたみ」が、どれほど引き継がれていたのか
今回の追及の焦点は2点あり、ひとつは事務所費の私的流用疑惑。今ひとつは、後援会への利益供与をにおわせる帳簿への杜撰な記載です。両事象を一言で言うなら、支持者からいただいた政治献金の扱いが粗雑であったということ。今の優子さんの支持団体を組織化し、献金スキームを作ったのは父恵三氏に他なりません。長年にわたり自らの足で支持者との地道な親交活動を続け、首相経験者がひしめく群馬県にあって強力な支援団体と豊富な活動資金を得るに至ったというのは有名なお話です。
突然跡を継ぐことになった二代目の優子さんに、父が常々感じていたであろう支持団体組成の苦労と彼らから活動資金を得ることのありがたみが、どれほど引き継がれていたのでしょうか。私はその点が非常に気になりました。今回の件で、たとえ事務処理を本人がやっていなかったとしても、本人に「父が苦労して得た支持者の皆さんからいただいた大切な献金」であるとの気持ちがあれば必ずや事務方にもそれは伝わり、杜撰な管理にはならなかったのではないかと思うのです。
少し前の話になりますが、大手メーカーの下請製造業のR社で、その2年前に創業者が亡くなり後を継いだ40代半ばの二代目若社長の一本立ちをお手伝いしたことがありました。
お手伝いを始めて数か月後のこと。大手メーカーからの急ぎの大量発注があり、先代の時代からの主要下請け先C社に大至急の仕事をお願いしたのですが、「その価格と納期では無理」とあっさりと断られたと社内が大騒ぎになっていました。C社が対応できなければR社の失注は確実。大手メーカーの信頼も失いかねず、今後の業績に重大なマイナスとなりかねない状況でした。
社員にも伝わる「感謝の欠如」
「以前のC社なら、絶対に受けてくれたでしょう」と、先代時代からの番頭役であるT常務がポツリと言いました。その一言が気になった私は、詳しい事情をたずねてみました。
「問題は、若社長がC社をどう思っているかです」
C社は元々創業間もない頃に、先代が足しげく通いお願して仕事を受けてもらった腕のいい下請け企業だそうで、先代はファミリーのように思って付き合い、オイルショックや円高不況の折にも随分助けてもらったのだと。
「若社長は、古くからの親交先とは知りつつも先代の気持ちを心底は理解できていないのでしょう。最近はコストの比較で他社に流れる仕事も多く、うちの社員もコスト重視一辺倒な社長の対応を肌で感じ、C社との接し方にも影響が出て今回のような対応を招いたのだと思います。コスト重視は分かります。しかし例えコスト重視で取引ぶりが変わろうとも、社長の先代から引き継いだ感謝の気持ちが社員に伝わりそしてC社に伝わるなら、今回のようなことにはならなかったのではないかと思うのです」
この話を受けて私は、若社長、T常務と三人で、改めて膝を詰めて話をしました。はじめは「今回は先方が出来ないと言う以上仕方ない。手当たり次第に他を当たる以外にない」で済まそうとしていた若社長でしたが、常務の話を聞いて「先代の苦労と関係先への感謝の気持ち」「社員の取引先に対する態度への影響」という部分に大変ショックを受けたようでした。
先代の苦労と関係先への感謝の気持ち
「コストの問題はコストの問題で考える必要があるでしょうが、C社をはじめ今の取引先の存在をあたり前のように感じてしまっていた私は、反省しなくてはいけないですね。父の時代の苦労や感謝をかみしめつつ、社員にもそれをしっかり示していきましょう」
若社長と常務は担当者を伴ってC社を訪問し、先方社長にR社の先代時代からの変わらぬ気持ちを伝え改めて真摯に仕事をお願することで、なんとかかんとか事なきを得たのでした。
小渕さんの今回の件を聞き、「先代の苦労と関係先への感謝の気持ち」がどこかであたり前のモノになってしまっていたのかもしれないと思い、この出来事を思い出しました。政治家も企業経営者も、二代目、三代目にとって「創業者の苦労と感謝」を亡き先代とそしてスタッフといかに共有するかは同じように重要な課題であると感じた次第です。(大関暁夫)