運命共同体から契約型組織へ
時を同じくして、特許権をすべて会社帰属にするという方針が政府内で持ち上がっている。本来、世界的に見ても、業務の範囲で行った研究成果は会社に帰属するか、原則自由とするのが主流だが、日本の場合、従来はなぜか本人帰属とされていた。その理由は知らないが、実際問題として「仕事を通じて取得した特許の権利は無条件で自分のものだ」という事実が「組織は後々必ず自分に報いてくれるだろう」という空気のような安心感につながり、運命共同体の一員であり続ける上で一役買っていたのは間違いない。
では、本人帰属を見直し、原則として特許は会社帰属とした場合、何が起こるか。特許が会社のものとなる以上、会社は将来に出世で従業員に報いる必要はなくなる。となると、従業員は、入社時や毎年の雇用契約の見直しを通じて、あらかじめ報酬について取り決めておく必要がある。
たまに「特許の会社帰属は、従業員に報酬を払わずに済むようにするため。財界の陰謀だ」的なことをいう人がいるが、それは大間違いだ。会社が優秀な研究者を雇用するには、高額な年俸や柔軟な雇用契約を用意する必要が出てくるだろうし、それをやらない会社からは優秀者が流出し、早晩淘汰されることになるだろう。要するに、運命共同体から契約型の組織に移行するということであり、従業員は(共同体の一員として)もはや我慢する必要がなくなるのだ。
「共同体の一員として、将来の出世で報いる」という報酬システムは、既に多くの企業で機能不全を起こし、往年の名エンジニア達が満足のゆく報酬を受け取れない状況になっている。2000年代以降、対価を求める元社員による訴訟が相次いだ背景には、そうした事情があるのだ。日本企業が優秀な人材を確保し、これからも高い成果を上げ続けるには、共同体方式から契約型組織への移行は避けられないだろう。そのためにも、特許権を会社に帰属させ、トラブルの芽を摘みつつ変革を後押しすることは重要なステップだ。