輸入雑貨販売店舗を複数店経営するG社のT社長、久しぶりにお目にかかったのですが、いきなりスタッフに対する不平不満が口を突いて出ました。
「とにかく今朝の話を聞いてくれ。抜き打ちで開店直後のC店に顔を出したのだけど、今日から始まったキャンペーンで値下げになっているハズの商品のプライスが書き変わってない。店長もマネージャーも全くノーケア。『お前ら、売る気あるのかー!』と一発怒鳴って帰ってきたわい」
店舗が増えてきて、その運営がルーズになっている
G社は創業15年。現在11店舗を構え、本社を含めた社員数は約50人、臨時雇用を入れれば100人を優に超えています。T社長によれば、こういう現場の不手際は5年前までは考えられなかったことだと言います。
「ここに来て店舗が増えてきて、その運営がルーズになっている。管理している本社の店舗管理が慣れっこで、各店をしっかり見ていないからこういうことになるんだ」
そう言うといきなり、ナンバー2で現場を統括する取締役で部長のSさんを呼びつけて、今朝の一部始終を話し「本社の管理がなってない」と厳しく叱責しました。Sさんはまじめ一筋のタイプで、当社立ち上げ直後に社長に請われて転職しほぼ二人でスタート。主に社内管理を担当し、二人三脚で会社を支えてきたいわば社長の「右腕」です。
「S部長、会社が大きくなるにつれて、どうも君の仕事ぶりが荒くなった気がするよ。悪い言い方をすれば手抜きかなと。ここまで順調に伸びてきた会社が今足踏み状態にあるのは、現場が効率的に機能していないから。それは部長、あなたの責任ですよ」
個人攻撃ともとれるかなり厳しい物言いが続いたところで、社長に急な来客が入ってしばらく席を外すことに。その隙にS部長に、以前と比べて管理が甘くなった原因について思い当たることはないかを、たずねてみました。
規模の問題と管理手法の変更がひとつのターニングポイント
「私は決して手抜きはしてません。ただ、店舗が少ない時代には各店それぞれの細かいところまで目が行き届いたのですが、店舗が増えて組織が大きくなると全てをしっかり管理するのは難しい、というより無理だと思います。社長は社長の立場で指示を出すだけなので分かってないと思いますが、店舗や人員が増えた分、従来通りに皆を管理するのは大変なことなんです...」
管理スパンが広がる中でいつまでも同じ管理方法をとっていたら、管理が甘くなるのは当たり前のお話です。同じ中小企業でも社長が直接現場管理を担当している場合は、店舗や人員の増加に伴って自分ひとりでは管理しきれなくなってきたことにどこかで気づくもの。一般的には社員20~30人規模までは社長ひとりの直接管理でなんとかなるものですが、それ以上になると自分の管理能力の限界を超えたと実感するのです。
成長軌道に乗せるための組織運営においては、この規模の問題と管理手法の変更がひとつのターニングポイントなのです。上手に管理方法を変えていかないと、会社はそれ以上大きくなることができません。創業後、倍々ゲームの急成長で伸びていた会社が、突然その勢いが止まることがありますが、そんな会社をよくよく調べてみると、組織内の管理がズタズタで非効率や意思疎通障害等が横行していたというケースは非常に多いです。
G社の場合は創業時から社長はもっぱら事業企画や仕入折衝に専念し、現場管理は社長の「右腕」S部長が一手に引き受けてきました。そのため、社長には本社の管理スパンの広がりによる創業来の管理方式に限界が迎えているという実感がなかったのでしょう。
ルール化、マニュアル化、IT化
こうして考えると、今G社の現場で起きている問題は、実はS部長の問題ではなく社長の問題なのだと思いました。50人規模になった会社には、ルーチンワークの仕組み化が必要です。大企業がそうであるように、ルーチンワークと定型外の企画を伴う業務をしっかりと分けて、ルーチンワークは効率性を重視して誰が担当しても無駄なく抜けなくできるようにしなくてはいけないのです。
仕組み化とは、具体的にはルール化、マニュアル化、IT化等を指します。どれも時間と労力とコストを要する作業であり、必要性に実感のない創業社長にその投資価値を理解してもらうのはなかなか難しい。S部長の話を受けて、すぐさまT社長に企業を成長軌道に乗せるためにも人をはりカネをかけてでも今仕組み化に取り組むべきと進言しましたが、いい返事は得られませんでした。
「マニュアルなんか作ったら組織がギスギスしてしまうからいらんし、業績横ばいの今、それをやるために利益を生まない人を雇うのは無駄。IT化?そんなものはもっともっと儲かってからの話だよ」
もっともっと儲けるためにもマニュアル化、IT化という仕組み化が今必要なんですけどね、社長。(大関暁夫)