形だけのタイムカード打刻、その後も仕事  「本当の残業代」を手にする方法はありますか?

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「残業しているのに、残業代が支払われたことがない」

   残念なことに、このようなご相談を数多くいただきます。ブラック企業によくある傾向です。いわゆるサービス残業ですね。なぜ、サービス残業の残業代は支払われないのか...

   今回はこの「サービス残業」について考えてみたいと思います(実際の事例の一部を変更してご紹介しています)。

「月35時間超の残業」は、タイムカードを一旦打刻し、その後も働いています

今日の残業は、何時までかかるかな...
今日の残業は、何時までかかるかな...

   ----(...ガチャン 19:45)

「今日もいつものように残業だなー...あと少し頑張るか」

   食品販売の会社でチームリーダーをしています。私の職場では、月の残業時間が35時間を超えると上司から注意が入ることもあり、時間を超えないよう周りの人に声をかけタイムカードを打刻し、その後も働いています。

   ある日上司から、

「D君の残業時間が40時間を超えているので、きちんと調整してくれ」

と呼び出されました。

   上司の言うとおり、D君の退勤の時間に関して注意をしましたが、不満そうな顔で、「働いた残業代、きちんともらえるように交渉してみてくださいよっ」と言われてしまいました。

   D君は注意にしたがってくれましたが、正直、私もこの流れに納得はしていません。35時間を超えてどんなに働いても残業代はでていないのですから。

   現状、うちの会社は残業が毎日のようにあり、35時間の残業時間はゆうに超えます。

   ですが、上司が目を光らせて記録上の「退勤時間」をチェックしているので、我慢しているのが実情です。

   仕事を終えて執務室を退室する際のカードキーの音が、「ピッ」と、虚しく響きます。

   この状況で、残業代をもらうことは難しいでしょうか。――

弁護士解説  「実際の労働時間を証明する証拠が、非常に重要」

   会社ぐるみで残業の証拠を隠ぺいしているので悪質性が高いですね。

   毎日2、3時間の残業もチリも積もれば山となる......こらこら、人様の時間を甘くみるなという感じです。

   今回のケース、会社の指示で実際の労働時間と異なるタイムカードが作成されていることもあり、実際の出退勤時刻を証明する証拠がない限り、タイムカードを超える残業代の請求は難しいと思います。お話を聞く限りではかなりの残業をされていますので、実際の残業時間について残業代を全て請求することはできますが、残業代が請求できることと、実際に会社が払ってくれるか、裁判で残業代請求が認められるかは全く別物なのです。

   特に裁判で残業代請求が認められるためには、実際の労働時間を証明する証拠をどれだけ持っているかが非常に重要になってきます。

   実際の労働時間の証拠として何が考えられるか......まず、労働時間を証明する証拠として1番有力なものは、始業時刻と終業時刻が打刻されているタイムカードです。

   タイムカードの労働時間は、裁判所に認めてもらいやすいのです。また、タイムカードがない会社であっても、上司の承認印のあるタイムシートや毎日提出している日報なども証拠となります。

   ただし、問題となるのは、会社からの指示でタイムカードを少ない時間で打刻させられているような場合、かなりの残業時間があるにもかかわらずタイムシートや日報の記載が全て定時になっているような場合です。

   お気づきかと思いますが、このような場合のタイムカードなどは実際の労働時間を証明する証拠にはなりません。「何時から何時まで働いていたかという具体的な労働時間」を証明しない限り、「実際はタイムカードの打刻時間を超えて働いていたんだ!会社はブラックなことをやっている!」と、本人が裁判所に主張したとしても残業代請求は残念ながら認められないのです。具体的な労働時間を証明しない限り裁判では負けてしまうのです。

出勤時・退勤時、会社のパソコンから家庭のパソコンにメールを

   ではどうしたらいいか。このような会社に勤めている方は、毎日の労働時間を自分で証拠として残しておきましょう。比較的簡単な例としては、出勤時・退勤時に会社のパソコンからご家庭のパソコンにメールを送ることです。メールの履歴を証拠として提出すれば、出勤時・退勤時のメールの時刻まで会社にいたことを証明できます。

   ご自身で証拠を残すことをしていなかった場合でもあきらめてはいけません。会社の出入口にセキュリティーゲートがあるような会社であれば、そのゲートの通過時間も労働時間を証明するのに有用です。今回のケースであれば執務室の入退室にカードキーを使用しているようなので、その入退室時間の履歴を会社に開示してもらえば労働時間を証明することができそうです。

   しかし、各個人の過去のゲートの通過時間などの情報は会社が管理・保管しているため、会社にデータを開示してもらう必要がありますね。会社が任意で開示しない場合は、裁判所に対して文書提出命令の申し立てを検討する必要があります。

   在職中に会社に対して残業代を請求することは躊躇されがちですが、残業代は2年で時効消滅してしまいます。時間が経過すると過去の残業代が法律上請求できなくなってしまうので、早期に対応することをおすすめします。(文責:「フクロウを飼う」弁護士 岩沙好幸)

   ポイントをまとめると、

1:実際の労働時間と異なるタイムカードが作成されている場合、タイムカードを超える残業代の請求は難しい
2:しかし、実際の労働時間を別の証拠で証明できれば、残業代をもらえる可能性がある
岩沙好幸(いわさ・よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業後、首都大学東京法科大学院から都内法律事務所を経て、アディーレ法律事務所へ入所。司法修習第63期。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物が好きで、最近フクロウを飼っている。「弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ」を更新中。編著に、労働トラブルを解説した『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。
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