新卒の学生に企業が求める能力として、よく挙げられるのが「主体性」です。仕事をする上では、確かに重要な能力ですが、重要であるにもかかわらず、曖昧で数値化しづらいのも事実です。「主体性がない」と言われてしまうと、本人はどう改善すればよいのか、さっぱり分からないのです。今回は、こうした悩みを抱えている女子社員を紹介します。
ハウスメーカーの一般職として働くK美さん(25)は、関西の私大を卒業後、入社して3年目の若手です。住宅営業の総合職社員のサポートのほか、ショールームでの接客などもこなし、後輩の指導を任されることも増えました。インテリアコーディネーターの資格も取り、前向きに頑張っています。が、最近、男性上司との面談で、「よくやっているし、接客も素晴らしい。でも、もっとこう、『主体性』を出して欲しいんだよなぁ」と言われてしまいました。
主体性って、何?
その場では、「分かりました」と答えたものの、よく考えれば、「主体性って、何?」。K美さんは言います。「今まで、進んで仕事をやってきたし、資格も取った。お客様や社内の人たちと向き合うときに、手抜きはしたことがないんです。でも、『主体性がない』って、どういうこと?」
経団連が2014年1月9日に公表した、「新卒採用(2013年4月入社対象)に関するアンケート調査結果」によると、企業が選考にあたって、特に重視した点(5つ選択)は、1位がダントツで「コミュニケーション力」(86.6%)、2位が「主体性」(64.9%)、3位が「チャレンジ精神」(54.8%)となっています。サービス精神旺盛で、人当たりのよいK美さんは、コミュニケーション力は申し分ない。ただ、上司からは、「主体性」に欠けると言われてしまいました。
「私は、目の前のお客さんや総合職社員に対して、目いっぱいのサービスをしているつもり。でも、それって『主体性』とはまた、別モノなんですね」と、顔を曇らせるK美さん。ただ、どうすれば「主体性」がアップするのか分かりません。上司に尋ねてみたところ、「もっと、現場の問題点とか、これからの会社のこととか、前に出て提案して欲しいんだよね」との答えが返ってきました。
K美さんは、いよいよ悩みを深めてしまいます。確かに、「現場の問題点」として、思い当たるフシがないわけではない。が、これまでは、「問題を報告する」というより、「どんな職場にも多少の問題点はあるのだから、文句を言わずに適応して、できることを精一杯やる」のが、ビジネスパーソンとして、あるべき姿だと考えてきたのです。
「協調性」や「コミュニケーション力」だけではなく...
「だって、課題を見つけて、上司にいちいち報告するのって、『会社批判』になってしまう可能性もありますよね。問題の指摘も大事だとは思うけど、私は今、目の前の人に尽くして頑張りたいんです」(K美さん)
彼女のように、サービス精神が強いタイプは、どんどん前へ出て提案する「主体性」よりも、環境に適応する「協調性」や、「コミュニケーション力」に長けているタイプが多いもの。ただ、それだけでは、長期的な人材育成をしたい上司にとって、不安が残るのかもしれません。上司からすれば、勤務年数が上がってきたK美さんに、どんどん重要な仕事を任せていきたい。その際、「K美さんは、会社のことや、今後のキャリアを、どう考えているのだろう」ということが、知りたいのではないでしょうか。
そう考えると、彼女に足りない「主体性」とは、現場でお客様対応をするときにはそれほど重要性を感じなくても、長いキャリアを自分で舵取りしていく時には、必要になってくるのでしょう。曖昧で数値化しにくい、「主体性」という能力。普段はその重要性に気が付かなくとも、自らのキャリアを、(それこそ主体的に)構築する際には重要なのだなぁと、悩めるK美さんを見て思うのです。(北条かや)