長時間労働やサービス残業が問題となる中、若者を対象とした「ゆるい就職」が議論を巻き起こしている。「週3日勤務で月収15万円」といった内容で、大手メディアも紹介した。「新たな働き方だ」とその意義に注目する声がある一方、「要するに派遣と一緒」と否定的な意見も出ている。
「組織に縛られない、新たな働き方」
「ゆるい就職」は、人材派遣を手がけるビースタイル(本社・東京)の新規プロジェクト。「多様な働き方や『新しい何か』を模索する未来志向の若者を対象に、週3日勤務で月収15万円といった、新しいワークスタイルを提供します」などとうたっている。2014年7月にスタートした。対象は、新卒から25歳くらいまでの「健全な若者」。派遣先・紹介先企業は、首都圏のIT企業などを中心に、数十社を準備しているという。
ネーミングに「ゆるい」とついていることから、「オフの時間を充実させて、まったり働ける」と思われそうだが、実際は少し違うようだ。ターゲットは、ボランティアや起業など、正社員以外の選択肢を模索する若者たち。少し前に話題となった「ノマドワーカー」のように、組織に縛られない、新たな働き方を提供する狙いがある。
ビースタイルのホームページには、「これは人材派遣および派遣社員紹介サービスです」との旨が赤字で書かれており、大きく「正規雇用など安定した就職を希望している方は、間違っても応募しないでください」との注意喚起がある。「ゆるい」のは雇用形態だけであり、仕事そのものが「ゆるい」わけではないという。また、「15万円」は額面で、手取りでは12~13万円に減る。一言で言えば、「新卒の若者に、非正規雇用の働き口を紹介する」事業だが、毎日新聞が2014年9月24日に報じたところによると、9月上旬の説明会には、定員の4倍、360人が応募したという。
「結局、ただの派遣では......」の声も
プロジェクトを企画したのは、慶応義塾大学特任助教の若新雄純氏。これまでに、全員がニートで、かつ取締役の「NEET株式会社」や、女子高生が自治体の改革を担う「鯖江市役所JK課」などを手掛けてきた。若新氏の試みに共通するのは、「多様な組織のあり方や、働き方があってもいい」という考えだ。
そんな若新氏の提唱する「ゆるい就職」は、ネットで賛否両論を巻き起こしている。「週休4日で月収15万円」とのコンセプトには、「ローン完済済みの持家に、親と同居しているなら、いい選択だと思う」とか、「ある目的のために、一時的にこういう働き方をするのはアリ」などの共感が寄せられた。
一方で、一部からは批判もある。ツイッターでは、「若者にとって、口当たりの良い言葉だけを並べて、食い物にする仕組みを作ったようにしか思えない」とか、「コンセプトでは、格好いいこと言ってる感じだけど、結局ただの『派遣』と『フリーター』では」などの声が上がった。また、正社員以外の道を模索する若者がターゲットになっていることを受け、「派遣会社に手伝ってもらう『モラトリアム』は、自分探しをこじらす『ヤバい現実逃避』のように思えるけどなぁ」と懸念する人もいる。議論を呼ぶ「ゆるい就職」、今後の動向に注目が集まっている。(KH)