先日、筆者はある記者さんからこんな質問をされた。
「ソニーはなぜ、いつまでたっても一人負けなんでしょうか?」
なんてことない質問なのだが、筆者にとっては実に感慨深い質問だ。
筆者は今から十年前に同じ電機の富士通から独立したが、その後しばらくは、メディアや他業種の人たちから、顔を合わせるたびに以下のような質問をされまくっていた。
「電機の中で、ソニーが素晴らしい理由は何ですか?」
「ソニーの人はエネルギーの塊みたいな人ばかりですねー」
当時は液晶テレビに代表される日の丸家電にまだまだ勢いがあり、ソニーや松下(現パナソニック)といったブランド力のある家電メーカーは我が世の春を謳歌していた。一方、そうしたブランド力の無い三菱や、重電や法人向けシステムが柱の東芝、日立、富士通といった電機はどちらかというと地味でどんくさい印象で、ややもすれば「負け組」扱いされていたものだ。
面白いのは、なぜかソニーの場合、人材や社風、人事制度がオリジナルで、それが他の電機との差につながっていると信じている人が多くいたことだ。ソニーの人はエネルギーの塊みたいな人ばかりですねー、社風も全然他の電機と違いますよねー、人事制度はどこがどう違うんですか?なんてしょっちゅう聞かれていた記憶がある。
ちなみに、そういうシチュ(エーション)での筆者の回答は以下のようなものだった。
「(既に職務給を導入していた)キヤノンを除けば、大手電機の人事制度は基本的に同じもので、普通の年功序列、終身雇用制度に過ぎない。採用する人材の質も育成方法も変わらないし、社風についても役員クラスならともかく、従業員~管理職クラスなら違いはない。違っているように見えるとすれば、それは事業領域の問題に過ぎない。いずれにせよ変化の激しい業種なので、これからは新卒で入って30年かけて元を取るような賃金制度は、組織にとっても個人にとってもリスクが高すぎるだろう」
今も、筆者はまったく同じ意見だ。ただ、30年どころか10年でこうなるとは予想していなかったが。ちなみに、東芝や日立は重電、三菱は産業用機器という柱を持つ優良企業で、富士通はグローバルでのシステム開発という強みがある。
一方、ほぼ毎年のように赤字と下方修正とリストラ発表を繰り返すソニーにどういう強みがあるのか、筆者には思いつかない。
「自由闊達でクリエィティブでエネルギーの塊みたいだった人たち」の、これが真実の姿である。