「チャリティー番組」高額ギャラ問題を考える 安易な批判は「ブラック労働」をうむ発想と同じだ

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サービス提供者の、現在に至る努力と研鑽に対して価値を意識してみよう

   先ほど「そんなスタンスが、ブラック労働を生んでしまう」と書いた。具体的にはこのような場面だ、皆さんの周りでもしばしば見られるかもしれないし、場合によっては「そんなこと当たり前」と思い込んでいるかもしれない。でもこの機会に、「言われた側」の立場からよく考えてみることをお勧めしたい。

<ケース1> イラストレーターの友人に、結婚式のウエルカムボードを描いてほしい

   あなた「こんど結婚するの! そういえばあなた、イラストレーターだったよね!? 絵描くの本業でしょ? じゃあお祝いに、私たちの式のウエルカムボード作ってくれない!?」

   友人「...」

   あなたは「一生に一度のことだし、絵なんか普段から描いてるんだから、そのうちのひとつとして、ケチらずにお祝いの気持ちでやってくれてもいいだろう」と考えているかもしれない。しかし、これはもう明らかに「プロフェッショナルへの冒涜」といってもいいだろう。

   イラストレーターの友人は、その職業で食べていくために時間とお金を投じて努力をしてきた。そして現在は、イラストを描くことで対価を得ているわけだ。部外者から見れば「絵など片手間で描けるのでは?」と思うかもしれないが、本業の時間、もしくはプライベートの時間をわざわざ割いて、金にもならない作業を、わずかな納期で仕上げる義理があるのだろうか。目の前の友人は困惑しているのではない。「自分の仕事を低く見積もられた怒り」で、はらわたが煮えくり返っているのだ。

<ケース2> システムのトラブルで業者を呼んで対処してもらったが、なんだかアッサリ作業が終わってしまった

   あなた「明日納品という大事な時期に、システムトラブルで作業できないのか!? 遅れたらこの仕事自体がパアだ! 早く業者を呼んで何とか対応しろ!!」

   ~業者さんが対応に来たところ、5分で作業終了~

   あなた「やれやれ、助かった... ナニ!! 請求額が50万円だと!? たった5分の作業で何言ってるんだ! すぐ終わったんだから、その分なんとかしろよ!!」

   この場合、あなたは単なるクレーマーだ。

   もし読者の皆さんの中で「あなた」側の言い分に共感した方は、成果ではなく、投下した労働時間のほうに価値があると思い込んでしまっている「ブラック企業マインド」をお持ちである。ぜひそのマインドは打ち捨てて頂き、「危機感」のほうを持って頂きたい。

   構図としてはケース1と同様である。その業者さんは、システムトラブルを一瞬で解決できるだけの技術力を備えていた。そこに至るまでには、地道な努力の積み重ねがあったことだろう。50万円という金額は時給ではなく、「卓越した技術力を持った技術者が、わざわざオフィスまですぐに来てくれ、迅速に対処してくれた」というサービス全体へのフィーなのである。所要時間が短く済み、納期遅れを回避できたことは喜ぶべきことであるはずだが、それを「短い=価値がない」と判断し、値切ろうとするとは愚の骨頂だ。おそらく、この業者さんは今後あなたがいくら危機的状況に陥っても助けようとはしてくれず、次回以降トラブルは広がっていくに違いない。

   我々は、形のないサービスの価値について、あまり意識することもないか、だいぶ割り引いて考えがちではないだろうか。そんな、配慮も感謝もないところでは、労働がブラック化してしまう。

   少しでもよいので、これからはサービス提供者の、現在に至る努力と研鑽に対して価値を意識してみよう。

   たとえば、「あなたのイラストが本当に大好きで、ぜひ結婚式で使いたいのだ」という真摯な気持ちが、お金以上にイラストレーターを動かすかもしれない。

   たとえば、「あなたのお蔭で、ピンチを切り抜けられました! 本当に助かりました!! これからもぜひお力を貸してください!!」という技術者への一言が、今後のトラブルをどれだけ救ってくれるかもしれないのだ。

   そんなわけで、話は最初に戻る。 ぜひ、物事を多角的にみてみよう。(新田龍)

新田 龍(にった・りょう)
ブラック企業アナリスト。早稲田大学卒業後、ブラック企業ランキングワースト企業で事業企画、営業管理、人事採用を歴任。現在はコンサルティング会社を経営。大企業のブラックな実態を告発し、メディアで労働・就職問題を語る。その他、高校や大学でキャリア教育の教鞭を執り、企業や官公庁における講演、研修、人材育成を通して、地道に働くひとが報われる社会を創っているところ。「人生を無駄にしない会社の選び方」(日本実業出版社)など著書多数。ブログ「ドラゴンの抽斗」。ツイッター@nittaryo
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