某大手エステサロンが、残業代をきちんと払わなかったなどとして、労働基準監督署から是正勧告を受けたニュースが報じられました。さらに、経営者が店員らに対し「威圧的な発言」をしたとして、録音音声が公開され、注目を集めました。これを受けて、「エステ業界はブラック」とのイメージも広がっているようです。
しかしながら、全てのエステサロンが「ブラック」というわけでもありませんし、安易なキーワードだけでは、見えてこないものもあるでしょう。そこで今回は、大手エステサロンで働く女子に焦点を当て、「仕事のリアル」を聞いてみました。
「顧客管理がアナログ」に悩み
「大手に就職したのは、研修がしっかりしているし、技術を習得していけばランクが上がって、きちんと昇級できるから」と語るのは、都内の有名私大を卒業し、新卒で大手エステチェーンに入社したE子さん(29)。スラッとした長身の美人です。
E子さんが働くエステチェーンでは、技術の上手さや成績ごとに、お給料も上がる仕組み。営業トップを達成したこともある彼女は、「仕事は自分に合ってると思う。残業はあるけど、その分、出社時間も遅いから、普通のOLと比べて大変だ、とかは思ったことがない」と語ります。
今回、問題となっている「たかの友梨ビューティクリニック」運営会社の経営者による「威圧的な発言」については、さすがにちょっと引き気味のようでしたが、「うちはあそこまでではないと思う」とのこと。かといってE子さんが、勤めているエステチェーンの経営層をものすごく信頼しているかと言えば、そんなこともありません。経営や労働環境の問題には、あまり興味がなく、淡々と目の前の仕事と向き合っているようでした。
エステ業界といえば、営業が大変とのイメージもありますが、「ノルマは特にない」そうです。「私の場合はもう、自分なりの営業マニュアルができてたから、それに沿ってお客さんが『自動で増える』感じ。ごり押しの営業もしない。コツを掴めば、誰でも営業はできると思う」(E子さん)。では、営業以外で大変なことってありますか?
「うちの会社だけかもしれないけど、1人1人のお客さんの『カルテ』が、未だに手書きなところ。お客さんが帰ったら、ファイリング用のシートに手書きで『ここまで施術が終わって、反応はこんな感じで......』と記録しなきゃいけない。それは大変かな」(E子さん)。
お客様対応というより、その後の「記録」に時間がかかるという彼女。営業も難なくこなし、やりがいを持って働くE子さんですが、「顧客管理がアナログ」という点が、昇進後の彼女を悩ませているそうです。
「施術以外の仕事」が増え、お客様対応に集中できなくなった
一昨年に昇進し、部下をもつようになったE子さん。「自分のお客さんだけならいいけど、下の子のカルテも全部チェックして、指導しないといけない」ようになりました。カルテは全て紙ベースなので、後輩へのアドバイスも、もちろん手書き。「後輩のカルテは1枚1枚、めくってチェックする。営業が上手くいっていない子には、方法に問題がないか見て、コメントを書いてあげなきゃいけない」。これが大変で、E子さんは今、転職を考えて始めています。
彼女いわく、エステの施術自体はとても楽しいのです。綺麗になったお客さんの満足そうな顔を見ていると、この仕事は自分に合っていると思う。が、昇進して、後輩のカルテ管理など「施術以外の仕事」が増えたために、自分のお客様対応に集中できなくなってしまったのです。
エステ業界に興味をもつ女子は、美意識が高く、接客好きなタイプが多いといいます。しかし、その能力が発揮され、営業成績を上げて昇進したとたんに、後輩のマネジメントに時間を取られ、「もっと自分の接客時間を大事にしたいのに」と、不満を感じてしまう。こうして、せっかく育った人材が流出してしまうのは、ややもったいないような気がしました。
E子さんが次に選ぶ仕事が何になるかは、まだ分かりません。試しに転職支援会社の面談を受けてみたところ、彼女の「コミュニケーション力」は、エージェントも驚くほど群を抜いていたそうです。(北条かや)