「脱成長煽り」に騙されるな 超訳すれば、引退世代の「自己防衛」だ

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   心の豊かさが大事とか、成長や経済より大事なものがあるといった言説が再び多くなっています。これを「脱成長煽(あお)り」と呼んでいます。

   そりゃ聞こえはいい話ですけど、額面通り受け取ってはいけません。誰がそんなことを言っているのか、ということに気をつける必要があります。

「もう余生を平穏に過ごしたいから、波風たてるな」

余生はのんびり…
余生はのんびり…

   脱成長がよいと考えているのは、引退した世代、つまり十分働いて、お金もそれなりに持っている世代じゃないでしょうか。

   いままで散々苦労をしてきて、ようやく引退した世代にとっての優先事項は、経済成長や、お金ではありません。

   「成長や経済より大事なものがある」というのは、

わたしなりに超訳すると、

「もう余生を平穏に過ごしたいから、波風たてるな」
「いままで散々苦労したから、今後はわたしを競争に巻き込まないように」
「お金より、健康が大事」

ということでしょう。こういうひとが脱成長といっています。

   これはある意味仕方がないといえます。

   私も若いうちはキャリアも、お金なんかぜんぜんありませんでしたから、きつい会社で徹夜の連続も、一生懸命に仕事をしました。そして、お金も貯めました。

   さすがに今では、肉体的にも連続の徹夜は無理ですし、多少のお金と引き換えに、嫌なことをやったり、体を壊したりするより、適度に稼いでバランスのとれた生活をしたほうがいいと思うようになりました。海外に住んで、稼ぎも減りましたが、いまのほうが心は豊かです。まさに、脱成長を地で行くような生活をしていますが、よくよく考えると、これは脱成長でしょうか?

   いや、そうではなく、たんに、私に余裕ができてきたからです。お金もたまり、仕事の単価もあがり、あくせく働かなくても、ある程度余裕をもって暮らせるようになったから、お金以外の価値観に目が行くようになっただけです。

   その究極が、引退した高齢者です。現役での競争はもうおわり、自分の生活が(ほぼ)100%になったわけですから、

「いまから仕組みを変えたりして面倒なことになるのはやめてくれ」
「経済よりも優先することがある(=老人福祉)」

というわけです。

高齢者の「道連れ」に?

   私が住んでいるベトナムでは、こういうひとは少数派です。だって、豊かなひとが少なく、人口も若い人のほうが圧倒的に多いから。彼らは、もっと成長をもとめています。

   しかし、日本においては、高齢者が、脱成長と、ひたすら現状維持をもとめているわけです。そして、数の上でも彼らが多数派です。

   これに煽られて、貯金も既得権もない若者が、脱成長とかいっていると、とんでもない目にあいます。すべて現在の高齢者にお金がいくポンプのような仕組みに吸い取られて、最後は、高齢者と一緒に、道連れです。

   私は、現在の70歳以上と、彼らの金脈である35歳前後の現役世代は道連れとおもっています。そして、数十年後に、彼らがほとんどいなくなったころ、いまの現役世代も経済苦で、同時に没落しているでしょう。

   そして、その時に、生まれたくらいの子どもたちが、負債をすべてリセットして、ようやくいきいきと成長をめざすのだとおもいます。

   日本の世代交代は、1代では終わらず、先代が死ぬまで3代かかって、孫の子供の4代目から変わる。そういうサイクルなんです。(大石哲之)

大石哲之(おおいし・てつゆき)
作家、コンサルタント。1975年東京生まれ、慶応大学卒業後、アクセンチュアを経てネットベンチャーの創業後、現職。株式会社ティンバーラインパートナーズ代表取締役、日本デジタルマネー協会理事、ほか複数の事業に関わる。作家として「コンサル一年目に学ぶこと」「ノマド化する時代」など、著書多数。ビジネス基礎分野のほか、グローバル化と個人の関係や、デジタルマネーと社会改革などの分野で論説を書いている。ベトナム在住。ブログ「大石哲之のノマド研究所」。ツイッター @tyk97
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