通常の会社であれば部長、課長というように管理職がいて、そういう人は40~50代だと思います。だから20代、30代の人は自分の上司を見ていれば「管理職はこういうことをやるんだな」となんとなく分かるのではないでしょうか。
しかし、ある業界ではこうした明確な管理職というのがありません。マネジメントという観点では未成熟だ、と私が感じている業界があります。
それは動物病院業界です。
専門外のマネジメントを任され…
動物病院は通常は獣医師が2人、看護師が3人くらいの組織です。大きくなると総勢30人というような規模になります。獣医師は大学を卒業してから1つの動物病院に3年位勤務して、2、3か所経験したら独立するというのが王道のキャリアです。そのためスタッフは20~30代のスタッフになります。
獣医師、看護師として入社してくる人は自分がマネジメントをやるなんて考えていません。しかし組織が大きくなってくるとそうは言っていられず、院長から獣医師長や看護師長というようにリーダーにされます。リーダーにされるのはだいたい勤続年数が長い人です。獣医の大学や看護師の専門学校では専門的な内容の授業しかやらないわけで、マネジメントなんて教わりません。
動物病院の院長も、獣医師という専門職であり、手術の技術の向上には興味があるけれどマネジメントの方は……という人が少なくありません。だから、獣医師長や看護師長といったリーダー格の人は院長からも教わることなく、みんな何となくやっているわけです。それが重荷になって辞めてしまう人もいるようです。
教わらないで自分の感覚でやると、個人の人間力頼みになってしまう
私が3年前から毎月人材育成の研修を行っている千葉のある動物病院は、院長の意識が高く、スタッフが働きやすい職場環境づくりや組織作り、スタッフの意識の向上といった点をどうするかということを考えています。
その甲斐があってか、スタッフの意識も高く、スタッフ間のいざこざがありません。
そのため定着率も良いです。動物病院は女性が多い職場なので、通常は仲が悪くなったり、派閥ができたりして人間関係が悪く、離職率の高さにつながることも珍しくありません。
お客様への接客対応が良いことから行列ができる動物病院になっています。最初は夫婦2人で始めたのに今ではスタッフ数が15人になりました。来年もスタッフは増やす予定なので2、3年後には20人になるのではないかと予想しています。
人数が増えてくると院長の目がいき届かなくなってしまうので、しっかりとしたリーダーが必要になります。
「リーダーはこういうことをやるんだよ」と教わらないで自分の感覚でなんとなくやると、個人の人間力頼みになってしまいます。そうなると、次にリーダーを任された人は先輩の真似をしようとします。似た性格、考え方、個性の人であれば真似はできると思いますが、全く違う人は真似をすることができません。個性が違うのに無理して先輩のマネをすると空回りして上手くいかなかったり、先輩と比較されて周囲からも信頼されなくなったりしてしまいます。それではあまりにかわいそうです。
人は個性が違うのだからそれは尊重し、リーダーの役割、心構え、やることといった基本的なことを教えてやってもらうようにすることが必要です。
「リーダー育成」が始まった
動物病院業界でしっかりとリーダー育成をやっている動物病院は、少ないのではないでしょうか。外部のリーダーシップセミナー等に行かせている動物病院はあるかと思います。しかし、話を聞いてもそれぞれ状況も違うし、個性も違います。だからセミナーを聞いてもリーダーとして実行していくのは難しいのではないでしょうか。
今回紹介した動物病院では、今まで毎月スタッフ全員に対して仕事に対する姿勢や自立といった基本的なことをやり続けてきました。これは継続してやっていきますが、院長とリーダーを育成するということを決めました。
私は完全ではありませんが、組織の状況を把握していますし、リーダー2人の個性も把握しています。だから実状にあった育成ができると思っています。
そして今年(2014年)の8月から獣医師、看護師のリーダー育成が始まったのです。
2人のリーダーに何を伝えたのか?
2人のリーダーは何が不安なのか?
次回はこの辺をお伝えします。(野崎大輔)