「社員ご家族に対する会社経営者としての責任の重さ」
「一報を聞き、言葉では言い表せないほどショックを受けました。そしてそれは、40年間の社長業でも最もつらい思い出です。彼の心情も察してあげられずに、会社の犠牲になって亡くなられたTさんにはいくらお詫びをしても済むものではない。私の代わりに命を差し出してくれたのかと、今も本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです…」
さらに、絞り出すようにこう続けました。
「すぐさま東北のTさん宅を弔問し目の当たりにした、大黒柱を失った尋常ならざるご家族の落胆ぶりは、わが身に置き換えて愕然としました。そして、それまであまり大きくは意識してこなかった社員ご家族に対する会社経営者としての責任の重さを痛感させられ、自分の経営者としての認識の甘さを思い知らされたのです」
確かに、職場においては社員個々人のプライベートは語られることが少ないがゆえに、日常あまり意識されることがないのかもしれません。しかし、社員一人ひとりは皆かけがえのかい家族を抱えているのであり、社員が働くことを通じて勤務先から生活の糧を得ているのならば、社員のみならず家族をも含めた従業員の生活を守ることが会社の務めであると言えます。経営者は常にそんなことも当然意識しながら会社のかじ取りをしなくてはいけない、O社長はそう痛感させられたのでした。
Tさん宅は当時、ご夫人と高校生の一人息子の三人家族。O社長は、ご主人を突然失い育ち盛りのお子さんを抱え途方に暮れるご夫人の姿にショックを受け、息子さんが成人されるまでできる限りの支援をしていこうと心に決め、それを貫いたのだそうです。