「労働量」に関しては法令を犯さないこと、まずはそこが前提条件
その上でやるべきは、T社長や辞めた従業員たちの話を参考にするなら、法に守られつつも増えていく単調な「労働量」とバランスすべき「やりがい」をいかにつくりだすか、ということになるでしょう。T社長はそのヒントのひとつを、精神論で従業員を鼓舞する居酒屋甲子園の管理スタイルを引き合いに説明してくれました。居酒屋甲子園は一時期テレビで取り上げられて、ネット上を中心にブラック批判が急展開されたこともある管理手法ですが、T社長は法令順守を条件にその活用を語ります。
「仕事にいかに埋没せずにやりがいを持たせるか、居酒屋甲子園のようなやり方が唯一無二の正解ではないと思うが、十分ありでしょう。飲食店スタッフのような単調な仕事のボリューム増加は苦痛を伴います。それをいかにやわらげつつ経営者が重視するローコスト・オペレーションを実現するか。うちも居酒屋甲子園はヒントにしています。それがまやかしだとか、催眠手法だとか言われるのは、自社の法的違反をごまかすために利用している会社があるから。正しく使うなら、ビジョン共有のひとつのやり方になり得るのです」
いかなる理由があろうとも「労働量」に関しては法令を犯さないこと、まずはそこが「バランス」の前提条件。そしてその上で、いかに単調な仕事に埋没させない「やりがい」を経営者が持たせることができるか。実際に高い定着率を実現しているT社長のお話には十分説得力を感じました。
「経営者として働いている人の気持ちを考えて、いつまでもブラックのレッテル貼りをされたくないという思いがある」と会見で話した、すき家を運営するゼンショーホールディングスの小川賢太郎会長。第三者委員会による実態調査報告書を公表すると言う英断に拍手を送りつつ、次は「労働量とやりがいのバランス」の上に立ったブラック回避の実践的労働環境モデルの提示に期待したいところです。(大関暁夫)