食べ物のリスクを「客」に押し付けるな 「中国製・期限切れ鶏肉」問題で問われる会社の基本姿勢

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「ミッション以前に大切にしなくてはいけないのはお客様だということ」

   ところが、コストが下がると同時に現場から不満の声が続々上がってきたのです。

「野菜の質が悪いとお客さまから苦情が出ている」
「魚の鮮度が落ちて、怖くてカルパッチョにできない」
「肉は筋っぽい部位が増えて、食べ残しが多くなった」

   当初常務宛に上げられていたこれらの声は、「調理方法で工夫して、この危機を乗り切れ」という常務の指導にかき消されていたのですが、ベテラン調理人が「今の運営方針下では働きたくない」と社長に退職を申し出たことで実態が社長の耳にも入ることになりました。

   社長はリーマン以降もお客さまを連れて幾度となく現場を訪れていたのですが、現場は社長来店時には仕入れた中でも特に状態の良い食材を選んで出していたので、現場の変化に気がつくことがなかったのです。

   状況説明を求める社長に対して、T常務の弁明はこうでした。

「社長からの一層のコストダウン指令を受けて、仕入先の見直しをしました。市場の売れ残りの半端モノを専門に扱う業者や肉や魚は中国の業者も使って、とにかくコストを落とすことを最優先したのです。社長からいただいた私のミッションは全うしています。あとは現場がいかに創意工夫するかの問題です」

   社長は一言、

「君は最も重要なことを忘れているよ。私からのミッション以前に大切にしなくてはいけないのはお客様だということ。コストを下げろとは言ったが、明らかに食材の鮮度が落ちることでお客さまの満足度が下がったり健康リスクが増したりするようなことは、絶対にあってはならないのは当社の常識だ。地域密着のうちは、そこを忘れたら商売にならないのだよ」
大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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