「社員の事故で配送ができなくなりましたので、他社さんへの乗り換えをお願いします」
ある日、弊社が運営しているカレーショップに、出入りの食品卸会社Y社からこのような連絡があり、騒ぎになりました。連絡を受けたスタッフからこれを聞き事情がよく分からない店長が問い合わせをしても、先方の幹部社員は「状況が分からない」との一点張り。
社員の事故が理由で配送ができなくなるとは、そんなに一度に何人もの社員が事故を起こしたのでしょうか。俄かには信じがたい気持ちではありましたが、こちらからの事情説明要求にも応える風もないので、とりあえず別の会社に発注先を変更して当面の事なきを得ました。
Y社は「社員の健康管理を顧みないブラック労働環境押し付け」
ところが、A社の配送担当が配送にやって来たのを見ると、なんと元Y社で当店担当だったO君だったのです。O君に転職のいきさつを聞いてみると、「今回のゴタゴタでいろいろあって、先輩の口利きで転職した」のだと。そしてトラブルの詳細をたずねる当方に、初めは口ごもっていましたが、徐々に重たい口を開いて真相を話してくれました。
「社員の事故は本当にありました。居眠り運転による交通事故です。ほとんど休みなしで、昼は配送、夜は仕訳に事務作業。皆かなりきつい毎日で、先輩方が以前から職場環境の改善を社長に迫っていたのですが、『嫌ならやめればいい』の一点張りで聞く耳持たず。そんな最中に大きな事故が起きました」
聞けば、事故の当人は少し間違っていたら命さえも落としていたであろう複数骨折の重傷とか。それでも社長は、事故はあくまで本人の責任だと主張。車の修理代金を払わないならクビにするという話に至って、配送担当が立ちあがり一斉に辞めることにしたのだと。
「たまたま、リーダー格の先輩が職場改善を受けない社長に見切りをつけて、いくつかの同業に転職打診をしていたので、事故を起こした彼も含めてうちの配送員たちの再就職先がほぼ確保できることになったのです」
言ってみれば経営者の社員の健康管理を顧みないブラック労働環境押し付けによって社員大量離脱が起こり、事業の継続が難しくなったわけです。現状、倒産こそ免れてはいるものの、急な事業放棄による信用失墜で開店休業状態が続き、他の大半の社員も解雇され、残ったのはほぼ経営者一族のみだといいます。Y社再建の道はかなり険しそうです。