ネット上で7月2日(2014年)あたりから、「高校生に自衛隊の募集案内が届いた!」「徴兵だ!」「赤紙だ!」などと騒ぐ声が出始めた。
集団的自衛権の行使容認に関わるニュースもあったタイミングだけに、過敏になってしまう気持ちも分からないでもない。しかし、不安になる必要はまったくない。実は、この時期に自衛隊の募集案内がくるのは「毎年恒例のこと」なのだ。煽っている人たちは、それが分かったうえでアクセスを集めたい確信犯か、単なる情弱のどちらかだろう。
採用ルール、大卒者と高卒者の違い
自衛隊は、陸上、海上、航空自衛隊に統合幕僚監部等の人員を合わせて、22万4526人を要する大組織である(2013年3月31日現在)。そして昨(2013)年度の応募(採用)実績でみても、ざっくりしたイメージでいえば民間でいうところの「正社員」(非任期制)である「一般曹候補生」で4000人近く、「契約社員」的な任期付採用である「自衛官候補生」で約8400人もの採用をおこなっている大量採用組織でもある。「大卒程度」以上の幹部候補生などは、また別枠だ。
防衛省・自衛隊サイトによると、一般曹候補生を例に挙げれば、採用受付は例年8月1日からはじまり、試験は9月19日からだ。このタイミングで採用広報を始めるのは民間企業と同じで、何の不思議もない。
意外と知られていないが、高卒就職者の採用ルールは大卒とは大幅に異なる。とくに違うのは次の3点だろう。
(1)採用活動時期が厳しく守られている
→大卒でも「倫理協定」などは存在するが、一部業界団体内だけのルールであり、従わない企業も多い。しかし高卒採用の場合は、「求人解禁は7月1日から」「応募開始は9月5日から」「選考開始は9月16日から」との協定が、中小企業を含め厳しく守られている。これは全国共通であり、9月16日の就職選考解禁日以降には、各地の高校生が一斉に入社試験を受け、筆記、面接などを経て選考の後に内定を得ることになる。
煽動的なニュースを見たら、まずは「本当にそうなのか!?」と検証を
(2)「個人が直接」ではなく、ハローワーク・学校を通して応募する
→中学生や高校生の 新卒求人は原則、公共職業安定所(ハローワーク)と学校を通して応募するという申し合わせが守られている。中高生は未成年であり、「無秩序な就職活動で学業が混乱するのを防ぐ」という考えによるものだ。
生徒は、ハローワークから出され、学校に掲示されるなどする求人票の中から行きたい企業を選ぶ。そこにはない会社や、県外就職を希望する場合は、進路指導の教諭に依頼して求人票を取り寄せてもらって対応することになるのだ。そして応募は、進路指導教諭との話し合いの上で、学校を通じて行われるため、「学校推薦」のような形になる。
(3)「1人で何十社も応募」はできない
→都道府県ごとに、1人で応募できる社数に制限を設けており、かつては「1人1社制」だったことも。つまり、大学生のように1人で何十社、何百社と応募して、多くの内定を得てから進路を決める、ということはできないわけだ。
都心部とは違い、地元の仕事があまり多くない地方の高卒生にとって、自衛隊は貴重な就業先という面もある。私自身、地方の高校への就職ガイダンスにも多数登壇経験があり、自衛隊は選択肢のひとつとして普通に存在している。
また仕事の特性上、危険な面が強調されやすい自衛隊の仕事であるが、入隊すると得られるメリットも多い一面もある。特別職国家公務員として給与・賞与は保証される。給与額がさほどでなくても、衣食住が支給される。職務の一環として様々な資格取得も可能であり、一定年数勤めた後、退官希望の場合は自衛隊が一般企業などの再就職先を斡旋してくれる、などなどだ。もちろん一方でネガティブな面もあるので、その比較検証はまた回を改めてお伝えしたい。
冒頭の話に戻ると、煽動的なニュースを見たら、まずは「本当にそうなのか!?」と検証するところから始めたいものだ。(新田龍)