先週のエントリー中、G社でセクショナリズムを改めるビジョン会議が立ちあがった話を書いたところ、ビジョン会議に関して複数、「具体的にその内容や進め方を教えて欲しい」とのご要望をいただきましたので、今回はその入口の話を中心にご紹介します。
G社のビジョン会議企画に際してまず社長にお話ししたのは、ビジョンの前程となるもの、すなわちG社の事業に関するあらゆる事柄の大前提となる自社のミッション(使命)を社長がしっかりと把握し、社員に伝える必要があるということでした。
「G社の仕事はどうあるべきか」
「御社のミッションは何でしょう」との私の問いかけに、「ミッション?建設業である当社のミッションと言えば、いい建物やいい家を作ることだろ。それ以外に何があるんだい」と、社長は当然のことのように、現在目先で感じる仕事のミッションを思い浮かべました。
しかし企業としてのミッションは、もっと根源的なもの、例えば創業者が何を思ってG社を立ち上げたのかとか、G社の社会的使命という観点から何を意識して仕事をするべきなのかとか、そういった目で見てじっくり考えて欲しいのです。G社の場合は、古くから地元役所の街づくり部署の仕事をしているということも、ミッション再構築のヒントになるように思いました。それらも含めて、社長にはじっくり考える時間をとってもらいました。
並行して社員の皆さんには会議で、「G社とは顧客にとって何か」「G社の仕事は自分にとって何か」を入口にして、「G社の仕事はどうあるべきか」という普段何気に通り過ぎてしまっている根源的な問いかけに関して考え、意見交換する機会をつくりました。これは、日常埋もれがちな「会社」や「仕事」というものを、社員の立場で意識し直してもらう作業でもあります。
意見を集約すると「理想と現実のギャップの大きさが目立つ」結果に
何度かの意見交換を経て社員から出された意見を集約すると、
「G社の仕事は、顧客から信頼を得られるものであるべき」
「G社の仕事は、社員個々人の生活の収入源とは言いつつも、自分たちにとってやりがいがあるものであるべき」
といったことに落ち着きました。
同時にこれらに関して現実はどうか確認すると、
「内部での仕事や責任の押し付け合いによって、信頼を損なうことが間々ある」
「事務的に仕事をこなす傾向が強く、やりがいよりもより少ない労力でより多くの報酬をもらいたいと思っている」
といった声が多く、理想と現実のギャップの大きさが目立つものでした。
この会議に立ち会った社長は、社員から出された意見にショックを受けた様子でした。
「社員が抱える仕事の理想と現実のギャップの大きさに驚きました。当社で働くことの誇りが感じられないことは、あまりに残念です。やりがいや誇りをもって仕事をしてもらうためにも、我が社のミッションを提示し、それを共有することの必要性を感じました」
そして、こんなことも打ち明けてくれました。
「実は、親父からこの会社を引き継いだ時に、経営理念というものが社長室に貼られていたんです。これは創業の祖父が書いたものらしいのですが、誰が読むでもなく、大昔の経営理念なんてカビ臭い気がして剥がして捨てたのです。ミッションの重要性を知るにつけ、そのことを思い出しました。よくよく考えると創業者は大切なこと言っていたなと。それも思い出しながらミッションを明示します」
「数字さえ上がればいい」ではなく
社長がまとめたG社のミッションは、「建物の設計、建設という仕事を通じて、自社も地域の人たちの生活も、すべて明るく楽しいものにしていく」というものでした。社長は全員を集めた会議で、このミッションに込められた創業の精神や自身の思いを伝え、「日々仕事をする中で自己の判断基準として、このミッションに沿っているか否かを常に置いて欲しい」と話をしました。
社長のミッションに込めた並々ならぬ思いと、現場への浸透の投げかけに対して、「これから建築と営業で議論になった際には、常にこのミッションに照らしてどのように対処すべきかを考え結論を出すようにしよう」と建築部長と営業部長がその場で話し合い、具体的な取り組みをはじめることにもなりました。
同じ目標数字を追いかけるにしても、ミッションのある会社は「数字さえ上がればいい」ではなく、いかに企業として満足度の高いやり方で数字を上げていくかを意識します。しかし、ミッション意識不在の経営では、数字ばかりを追いかけることになってしまい、最悪のケースではブラックと言われる状況にもなりかねないのです。経営者は常にミッションを意識し、それを社員と共有する必要があるのです。
その後G社のビジョン会議は、自社ミッションをベースとして様々な議論がすすみ、これまで数字ばかりだった経営目標を改めるべく中期ビジョンと中期経営計画の策定に入ったと聞いています。(大関暁夫)