「夜はこっそりキャバクラで働いています」という女子大生は、意外と多いようです。「けしからん」なんて声も聞こえてきそうですが、彼女たちはキャバクラでの仕事を通して、社会でも通用する「スキル」を身に着けているのです。
「内定はメーカー中心に、3つもらったよ。やっぱ大手がいいかなって」「就活はけっこう楽勝だった。営業だけどインセンティブもあるし、あんまり不安はないよ」
『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)の元となる論文を書くため、キャバ嬢たちにインタビューしていた4年前。印象的だったのが、お店で優秀な成績を収めた女子大生キャバ嬢ほど内定を多く獲得し、その後も会社員として活躍するケースが目立つ、ということでした。
ストレス耐性がとても強く楽観的
彼女たちが夜の仕事を始めたキッカケは、「友達に誘われて何となく」といったものから、「仕送りゼロなので、生活費のために」というケースまで様々。特にリーマン・ショックの後は、自活のためにキャバクラで働く女子大生が増えたようです。
キャバクラの仕事は決してラクではありません。募集広告には「お客様とお酒を飲んでおしゃべりするだけで、時給5000円以上も可能!」などと書いてありますが、実際は「お金を払っているのだからいいだろ」とセクハラするお客さんは当たり前。イッキ飲みを強要されたり、「不細工!」と外見をからかわれたりすることもしばしばです。嫌な客に対しても、心からの笑顔で楽しませなければなりません。店によっては女の子同士の派閥もある。
そんな環境下で「生き残る」キャバ嬢は、ストレス耐性がとっても強いのです。楽観的で、少々のことではくよくよしません。こうした性質が、就活の面接などで高く評価されるようです。
「顧客のニーズを把握する」能力にも長けている
売れっ子キャバ嬢は、「顧客のニーズを把握する」能力にも長けています。ある女子大生キャバ嬢いわく、お客さんの席についたらまず「話を聴くことに集中する」とのこと。団体客の場合は「お客さん同士の力関係」を判断し、それぞれのタイプを見極めます。たとえば「上司におべっかを使い、自分はいじられキャラに徹している」若手社員の隣に座ったら、「本当は○○さんだって頑張ってるんですよね、でも辛い時もありますよね。きっとあの上司も、そういう○○さんのこと評価してますよ♪」と、上司には聞こえないように囁く。すると「いじられキャラ」を演じている社員は、「この子は分かってくれている」と感激し、指名に繋がるというのです。
キャバ嬢として「相手の話を聴き、相手が喜ぶものを提供する」技術は、社会人としても必要なスキルでしょう。こうした技術を磨こうと、自己啓発書や会話テクニックの本を読んで勉強しているキャバ嬢も目立ちました。そうまでして「ランキング上位を目指したい」という熱意があるのですね。
もちろん、女子大生キャバ嬢たちは「水商売」への偏見が根強いことも分かっているので、面接や入社後に自ら「キャバクラで働いていました」とは言いません。でもその上昇志向や、相手の話をきちんと聞く能力は、面接官や顧客にそれとなく伝わるようです。
キャバクラは、精神的な苦労から短期間で辞めていく人が多い業界です。そんな中で一定期間にわたりランキング上位を維持できるキャバ嬢は、単に気遣いができるだけでなく、ストレス耐性もある。そういう人材を、一部の企業が「採用したい」となるのは分かる気がします。(北条かや)