企業における新人教育の課題の1つに「学生から社会人へと意識を変える」ということがあります。前職人事時代の担当業務の1つに新卒採用がありました。私は一次面接を担当していました。いろいろな学生と会っていて、「本当に就職したいのか?」と思えるような受け答えをしている学生がけっこういたので「大学で学生に対して、もう少し働く上での意識付けをやって欲しいものだ」と思っていました。
あれから6年経ち、当時思っていたことをやっている大学がありました。
ちょうどゆとり世代ど真ん中の大学生ですし、あと数年したら就職して働くわけですから若手社員予備軍ということでお伝えしたいと思います。
「自ら考えて行動する」をテーマとした課外授業
埼玉県にある聖学院大学では、1年生から就職活動の準備として「自ら考えて行動する」ということをテーマとした課外授業を行っています。
今年(2014年)で3年目になりますが、この授業は自由参加であり、単位が取れるわけではないのにもかかわらず、少しずつ受講する学生が増えてきました。
弊社の代表の三井豊久が行っており、授業では課題は与えても答えは教えず、自分達で考えて行動するというスタンスで取り組んでいます。我々は「教えない教育」と言っています。
私は6月14日に本年度2回目の授業にアシスタントとして参加してきました。
20人弱の学生が参加していました。
授業の中で会社の疑似体験をさせるということを行っています。
3つのグループに分け、会社名、代表取締役、経営理念を決めるなど通常、会社を設立するのに必要なことをやってもらっています。今回はこちらで用意した3つの商品から1つずつ選んでもらい、自分達で選んだ商品を売り込むためのプレゼンをやってもらいました。
参加している学生に共通しているのは、人とのコミュニケーションが苦手だということです。でもそんなことは感じないくらい活発に話し合っていました。
自分達で決めた商品のプレゼンを
「ターゲットはどうする?」「売上はこのくらいだよね」「アピールポイントはここだよね」
という具合に社会人顔負けの議論をしていました。
そして自分達で決めた商品のプレゼンをやってもらい、欲しいと思った人は手を上げるということをやりました。私は客観的に見ていて「短時間でよくここまで出来たものだな」と感心しながら見ていました。
大学の職員の方も「あの子があんなにイキイキとしているなんて!凄く変わった」と驚いていました。
会社の疑似体験をして商品のプレゼンをするということは、社会人が研修でやってもおかしくない内容です。それを彼らは楽しそうに積極的に取り組んでおり、そこには世間で抱いているゆとり世代のマイナスイメージはありませんでした。
対人コミュニケーションも苦手、勉強もどちらかというとそんなに好きではないという彼らが、わずか2か月でなぜでこんなに変わっていったのか?
それには3つの理由があります。
(1)相手を否定しない
まず学生が言っていることを否定せず、受け止めるということをやっています。
学生の中には的外れなことを言ったり、自分だけが話し過ぎたりということもあります。
普通だったら「それは違うね」と言ったり、「君は喋り過ぎだ!」注意したりすると思います。
そういうことはせずにまずは話を聞き、周りのことも考えるように気づきを与えていきます。相手を否定しないということが大前提にあり、そうすることで彼らは話しやすくなるのだと思います。「ここは僕が話しても大丈夫な場所なんだ」と安心したのではないでしょうか。
(2)先輩が後輩を見守っている
当時1年生だった学生が3年生になり、彼らもたまに参加してくれます。
自分達も体験したことなので、後輩達を上手くフォローしてくれているようです。
先輩風を吹かすわけでもなく、出しゃばるわけでもなく、後ろから見守るような感じになっています。先輩がお手本になってくれていることで助かっています。
(3)協力し合うという姿勢
「自分で考えて行動する」に加えて、「チーム一丸となる」という意識を持つことが大事です。1回目の授業で、次回までにチームで考えてくるという課題を与えました。
今回の授業までにみんなで集まって課題をやってきたようです。こうすることで仲間意識が芽生え、コミュニケーションを取ることができるようになっていったようです。
「自信を持たせてあげる」重要性
上記3つに加えて、もっと大事なことがあります。それは自信を持たせてあげるということです。
「君のこういうところがイイよね」
ということを随時言っていますが、本人が気づいていないこともあったり、自分では欠点ではないかと思えることが褒められたりするので、「自分もできるかもしれない」と少しずつ自信を持てるようになってくるのです。こういうことをやっていると信頼してくれるようになり、聞く耳を持ってくれます。
私はアシスタントとして参加しながらも、客観的に見ていて、彼らが授業に取り組む姿勢を見て自分自身が気づかされたり、刺激をもらったりしました。
世の中には、頑張りたいのだけれどどうすればいいか分からず、くすぶっている人は多いと思います。そういう人達も変わっていくことはできるのです。
今回の内容は大学生のものですが、何かヒントになればと思います。(野崎大輔)