ソニー株主総会にみる「社長の緊張感」の重要性 非オーナーなら「1年1年が勝負」

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   先週、ソニーの株主総会をのぞいてみました。前年黒字化を誓った主力のテレビ事業が10年連続の赤字で、他の家電メーカーはじめ大半の大企業がアベノミクスの波に乗り好決算を記録する中、グループ全体でもほぼ「ひとり負け」状態の大幅赤字。株主に相対した平井一夫CEOは、総会冒頭からふがいない業績に対するお詫びと弁明に終始しました。

   総会の終盤に、そんな平井CEOに向けられた厳しい質問がひとつありました。

「お話をうかがっていて、今期に期待が持てる目新しいことが何ひとつとしてない。あなたは社長として、今年度の業績目標をコミットするべきだ」

コミットメント経営の常識

この道の先には…
この道の先には…

   コミットは直訳すると「任せる」ことですが、業績をコミットするとは、業績目標達成の約束を条件として経営者に任せること。すなわち、「あなたに社長をお任せするから、どうやってもいいけど約束は守ってくださいね」という、欧米的な契約社会を発祥とするやり方で、正式にはコミットメント経営と呼ばれます。そして、任せる代わりに目標未達の場合には責任をとってもらいますよ、というのもまたコミットメント経営の常識であります。

   日本でこのやり方を広めたのは日産自動車のゴーンCEOです。ゴーン氏は業績急下降時の日産に資本提携先のルノーから乗り込んで、日産リバイバルプランでV字回復をぶち上げました。その際に彼がとったやり方がコミットメント経営でした。

   日産がまさに経営危機にあったこの時、ゴーン氏は官僚的大企業管理に慣らされた日本の大企業社員たちの希薄な危機感に驚いたと言います。氏は業績目標をコミットすることで、組織内の緊張感、危機感を呼び起こすことに成功し、リバイバルプランは1年前倒しで目標達成に至ったのでした。ソニーの平井CEOにコミットメントを迫った株主の質問は、おそらく緊張感をもって日産の危機を救ったゴーン氏を頭に描いてのものだったのでしょう。

二年連続目標未達の責任をとらされた

   日本的オーナー経営の中小企業においては社長=大株主であるが故に、このようなコミットメント経営が必ずしも有効であるとは思えませんが、中小企業でもサラリーマン社長で業績低迷時であるならなおのこと、自分はコミットメント経営を強いられているという意識を持って周囲に対しても緊張感ある組織のかじ取りをする必要があるのです。

   私の知り合いで、こんなことがありました。

   リース会社の役員を務めたTさん。その退任後に取引先中堅製造業S社のオーナー社長から、自分の後任で社長をやってもらえないかという話をいただいたのでした。30代のご子息がもう少し企業経験を積まれるまでの間つなぎという意味合いと、リース会社時代の財務指導力に惚れこまれてリーマンショック後の不況下での難しい企業のかじ取りをお願されたということでした。

   私が本人からお話をうかがったのは、Tさんが社長就任直前のこと。「オーナーからはじっくり構えてつなぎをして欲しい、と言われているので、とりあえず5年から10年でバトンを渡せればと思っている。社長を任されるのは光栄の極み。企業人人生の総仕上げとしてじっくり腰を据えて『中継ぎ経営』に取り組みます」と話していました。

   ところがその2年後にTさんが突然社長を降りられたという話を聞き、びっくりさせられました。予定外に早くご子息へのバトンタッチがなされたのかと思いきや、後任はS社取引先上場企業の元役員であると言うので二度びっくりだったのです。すなわち、実質オーナーによる解任、社長交代劇であったと。Tさんの経営手腕に期待をかけた業績回復はかなわず、二年連続目標未達の責任をとらされたのです。

「自らの進退を賭けている」をいかに社員へ伝えるか

   ほとぼりが冷めた頃にTさんとある会合で再会する機会を得、事の顛末をうかがいました。

「二年間で将来に向けての企業体質強化の基礎はできたとの自負はあります。しかし、業績回復に向け組織内の緊張感を呼び起こせなかったこと、すなわち実績を残せなかったことで、会長や幹部社員の私への風当たりが強くなりました。1年1年が勝負というサラリーマン社長としての緊張感とリーダーシップが足りなかった。私はゴーンさんのように、業績回復に向け『私はクビをかけてがんばるから君らも頼むぞ』と宣言してでも、社員を引っ張っていくべきだったのです」

   業績悪化時の社長の存在感に関しては、オーナー社長なら「最後までリーダーとして君たちと運命を共にする」という無言の求心力がありますが、サラリーマン社長にはそれがない。やれることは、「自らの進退を賭けている」という危機感や悲壮感をいかに社員に伝えて動かすかです。サラリーマン社長の業績回復に向けたリーダーシップのあり方は、そこにあるのだと認識させられた一件でした。

   さてソニー平井CEOの株主質問への回答ですが、お詫びと弁明を繰りかえしコミット要求に対してはノーコメントを貫いて終了しました。ゴーン氏が実践した業績低迷時なればこそのサラリーマン社長におけるコミットメント経営の重要性を思い描きつつ、それができずに更迭されたTさんの無念そうな顔が思わず思い浮かびました。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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