前回は、男社会の中で成功したエリート女性の一部が陥る「クインビー(女王蜂)症候群」について紹介しました。今回は、彼女たちよりさらに手強い(かもしれない)「バタフライ症候群」と呼ばれる女性たちについて考えます。
斎藤美奈子さんは『紅一点論』(筑摩書房、2001年)の中で、女らしさを過剰にふりまき、「お姫さま扱い」されたがる女性たちを「バタフライ症候群」と名づけました。彼女たちは、男性並みに頑張って成功するクインビー(女王蜂)のような戦略は取りません。美しい蝶のように、女らしさという鱗粉をふりまき、男性を魅了するのです。
「ぶりっ子」とは違う、巧妙な戦略
いくら女性の進学率が向上し、働く女性が増えたといっても、働く人に占める女性の割合は4割ほど(厚生労働省「働く女性の実情」2012年版)。企業や部署によっては女性の数が極端に少なく、「男の園」状態も珍しくありません。
そんな中で、男性と対等に競争して「上」を目指すのは大変。こう悟った一部の女性は、まるで蝶のように可憐な女らしさや若さを売りにすることで、男性社員に取り入ろうとします。彼女たちが目指すのは「男と平等になること」ではなく「女としてちやほやされること」。
だからこそ、毎日綺麗にお化粧して、(いやらしくない程度に)ボディラインを強調した服装に身を包み、男性社員には1オクターブ高い声で接するわけです。仕事で困ったら「すみません、相談に乗ってもらえますか……?」と、子犬のような目をして歩み寄り、得意技は飲み会でのお酌とボディタッチ、男性社員へのおべっかです。
男性は意外に鈍感なので、こうした女性の態度の「裏にある思惑」には気が付きにくいもの。ただ、バタフライ女子も「ぶりっ子」ばかりしているわけではありません。他の女性に嫌われないためにも、適度に仕事をこなす必要がある。そんな彼女たちが意中の男性に、よく使うセリフはこちら。
「新人の女の子、なかなか部署のルールを覚えてくれないんですよね。何か協調性がないっていうか……」
本心では新人の若い女性を叩きたいだけなのに、「部署のルール」をタテマエに、お目当ての男性から共感を得ようとするわけです。彼女たちは、他の女性をそれとなく落とすのが実に上手い。
本当に強いのは、クインビーかバタフライか
男性並みの努力で成功しつつ、他の女性を「やる気がない」と叩くクインビー症候群。対照的に、女としてちやほやされたいだけのバタフライ症候群。どちらも「女である存在感を利用し、他の女性をおとしめている」ことに変わりはありません。「男女の枠組みに囚われず、普通に働きたい」女子にとっては、クインビーやバタフライたちが近くにいるだけで、心がかき乱されるものです。
名誉男性であるクインビーは、「男女関係なく、仕事ができてナンボ」という価値観に染まっています。自分は努力して「女の悪い部分を克服してきた」と考えているため、多くの女性をもともと、能力が低い存在とみなしているのです。
一方、バタフライたちも男性社員に取り入るため、「男が上、女が下」という価値観をあからさまに信じている点では同じ。男性と競争したって負けるのは当たり前、と思っているからこそ、蝶のように「か弱い存在」として守ってもらおうとするわけです。
自然界の女王蜂は多くの働き蜂を従え、するどい針を持っています。一方で蝶は、花と花の間をふわふわと舞い飛ぶばかりで、寿命も短い。水商売で働く女性を「夜の蝶」などと呼びますが、これも華やかなイメージだけでなく、女性の若さや美しさが儚いものであることも含んだ例えに思えます。
どうせならクインビーのように図太く生きてみたいものだと思いつつ、そんな覚悟もできないのでバタフライを目指すが、結局どちらにもなりきれずに日々悶々と過ごす……という女性も少なくないのかもしれません。もっとも、最近では、そうした極端な生き方にとらわれず、しなやかに我が道を行く女性も増えてきているようです。(北条かや)