「信用しつつも任せきりにしない」
もちろん、採用面接や経歴チェックをして、「相対的に」倫理観が高いと思われる人材を確保することは重要だ。その上で、会社の倫理方針を明示し、経営者自らがよき手本を示すとともに、従業員教育や人事評価にも倫理方針との一貫性をもたせる必要がある。しかし、どこまでやっても、人間の弱さ、身勝手さをゼロにすることはできないという現実を見据えなければならない。事件が起きてから「部下を信じていたのに」と嘆くようでは、管理者失格だ。
「ダブルチェックをしているのだから、まさかそんな不正は起きないだろう」という安易な発想も禁物だ。
「ダブルチェックをするルールになっている」と「本当にダブルチェックをしている」とは同じではない。横領事件の原因を探ると、「上司がチェックすることになっていたが実際には・・・・・」「小切手と印鑑は別々に保管することになっていたが・・・・・」という実態が明るみに出ることが少なくない。
「ちゃんとチェックしろよ」と言い放つだけではダメで、「ちゃんとチェックしているか」を自分の目で実際に確かめなければならない。おカネや重要情報の取扱いにおいてはトリプルチェックを徹底している会社もあると聞くが、いずれにしても、ただ伝票にチェック印を押すだけでは意味がない。
ペイアンドリターン型の不正については、発注先別の取引状況を経理部門や監査部門が細かくモニタリングすべきである。そして、取引の急増・急減、支払取消などの異常な動きを見過ごさずに、原因を調べることが必要だ。さらに、発注・支払担当者を長期間固定化しないようにすることも、不正防止には欠かせない。
経営者、管理者には、会社のかけがえのない人財を犯罪者にしてしまわないようにする重い責任がある。リスクへの感度を研ぎ澄まし、「信用しつつも任せきりにしない」管理を心掛けなければならない。(甘粕潔)