「決断」のつもりで「次々新戦略」の社長 実は「捨てる決断」ができない人だった

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「捨てる決断=経営の断捨離」の重要性

   Y社長の一喝で研修準備がようやく動き出し、各セクションの管理者とのヒアリングを始めたのですが、驚いたことに総務部長の状況とも相通じる、さらに悪い実態が続々各セクションから出てきたのです。多くの部門の管理者が口をそろえて言ったのが、「次々出される社長のオーダーにてんてこ舞いしている。新たなオーダーにより優先順位が下がり、『オクラ入り』『塩漬け』と思った案件も、忘れた頃に『あれはどうした』『進捗を報告しろ』とオーダーが入る。次々新たな取り組みへの指示が次々出される中で、代わりに見送られて当然と思っていたものにまであれこれオーダーが出され、収拾がつかない状況」なのだと。

   そんな中、Y社長の「決断」の実情を象徴する決定的な事象が出てきました。営業部門の部長が「勤怠に問題ありの社員を辞めさせ、新しい社員を採用したい」と社長に相談したところ、「新しい社員の採用はともかく、せっかく金をかけて育てた社員をもったいないから自分から辞めると言うまで辞めさせるな」と言われた話をしてくれました。「金をかけたのだからもったいない」は、企業経営における判断基準として聞き捨てならない一言です。すなわち、新しいことには何事も「決意」ができても、やめる、捨てることには「もったいない」が先立って「決断」が出来ないという社長の実情が明らかになってきたのです。

   本当の意味で「決断」ができる経営者は、単に前向きなことへの踏み出しを「決断」できるだけでなく、新しいことへの取り組みと引き換えに何かを止めたり捨てたりする「決断」もまたできるのです。例えこれまでの投資が無駄になろうとも、効率化を念頭にこの先を見通し、このまま続けることのマイナスを重視できなくてはいけないのです。経営において何より大切なことは、「これまで」ではなく「この先」なのですから。

   当時研修の合間に、Y社長には「捨てる決断」の重要性のお話は何度かさせていただいたのですが、業績好調で自身は「決断力」があると思い込んでいる社長のやり方がそう簡単に変わることはありませんでした。あれから約2年、最近では捨てないことの無駄がかさんで、同社の業績にも影響が出てきているとの話が漏れ聞こえてきました。ここがチャンスかもしれません。B社今後の成長のために、近々Y社長を訪ねて改めて経営者がするべき「決断」への正しい理解、すなわち「捨てる決断=経営の断捨離」の重要性への理解を求めたいと思っています。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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