「保守本が盛況」を嗤(わら)う 「なんちゃって保守」の本質は左翼だ

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

   最近、どこの書店に行っても、新刊コーナーの一角に必ず『保守』コーナーを目にするようになった。タイトルはいろいろだが、基本的に「日本はこんなにすごい!」「中韓はこんなにダメだ!」的な論調で一貫している。聞けばそれなりに部数は出るようで、出版不況が叫ばれる中、数少ない金脈に多くの出版社が群がっているように見える。


   一方、政治の世界では維新から分離した石原慎太郎氏が保守系新党を立ち上げ予定で、都知事選で60万票集めた田母神俊雄氏も合流を示唆している。ネタ枯れ気味のリベラルとは対照的に、保守方面ではいろいろな動きが活発化しているのは事実のようだ。かつて「学生運動やらない奴はモテない」と言われたように、これからの日本では「保守じゃないとカッコ悪い」という時代が来るのだろうか。

時代にそぐわないものは率先して改革し、進歩する気概を持つ


   恐らく、そうはならないだろう。というのも、今ちまたにあふれている『保守』の多くは保守でも何でもないまがい物であり、まがいものは外野でワーワー言っている分には許容されるけれども、日の当たる場所には決して出てくることが出来ないからだ。


   たまに勘違いしている人がいるが、保守とは古いものにしがみつくことではない。むしろ時代にそぐわないものは率先して改革し、進歩する気概を持ったグループだ。武士階級の一部が起こしてそのまま明治国家を作った明治維新がその典型だ。


   現在の日本は、戦後の高度成長期以降にできたいろいろなシステムが機能不全を起こした状態にある。国から地方へのバラマキ、公共事業依存、そして終身雇用制度etc……


   そうしたものに積極的に手を加え、改革しようとする姿勢こそ、正しい保守のあるべき姿であり、「農家や特定産業が困るから自由貿易反対」だの「公共事業で経済成長」だの言っているのは、保守の皮をかぶった利権屋に過ぎない。


   ただし、改革によって既得権をぶっ壊せば、確かに自由競争は実現するだろうが、能力の無い人は今より貧乏になる可能性もある。本来なら、そこは再分配で要求するべきだ。でも、日本の左翼と呼ばれる人たちはなぜか外交とかエネルギー政策ばっかり一生懸命で、実現味のある再分配政策を主張しているのを聞いたことがない。

弱者からすればたまったものではない


   むしろ、当コラムでも触れたことがあるように、彼らリベラルは貧乏人を量産しようとさえしてるんじゃないかと筆者は感じることもある。確かに貧乏人を増やすことはリベラル政党から見れば合理的なのかもしれないが、弱者からすればたまったものではない。「今の左翼はうさん臭くて信用できない」と感じるセンスは、筆者は人として正しいと思う。


   自由競争すれば社会は活性化するかもしれないが、自分は生き残れそうにない。でも、リベラルは反日活動や高齢者向けのバラマキにしか関心がなく、自分たちのことは眼中にない。自分たちは一体どうすればいいのか……


   そんな彼らに優しく微笑みかけてくれるのが、本屋で平積みになっている『保守本』である。


「努力しなくてもあなたは日本人というだけで世界に誇れる素晴らしい人間です。規制緩和なんてしなくても政府がいっぱいばらまけば豊かになれます。国の借金は国民の資産!」

   こうして、誰からも相手にされない可哀想な人たちから小銭を巻き上げているのが昨今の保守本の本質であり、「家内安全」のお札を売りつけてみんなで『ええじゃないか』を踊っているようなものだというのが筆者の見方だ。


   だからこそ、彼らは永遠にそこまでの存在に過ぎない。ネットや本屋の店先やワイドショーでワーワーやる分には許容されるが、政策として実行責任の伴う表舞台で「ええじゃないか♪」を踊るのは不可能だからだ。

より豊かに、そして正しい保守になるための唯一の方法


   そういう意味では、石原新党の政策はいいリトマス試験紙になるだろう。憲法改正やら中国への強硬姿勢やらでだいぶぼやけているけれども、実は石原さん自身は常に改革には前向きだし、なんとかして与党の中枢に復帰したいというがっついた野望を持った政治家だ。


   何より石原さんは努力不足のくれくれ庶民が大嫌いなタイプなので、上記のような『なんちゃって保守』は一顧だにせず切り捨てるに違いない。議員時代からの一貫した移民受け入れ発言からもわかるように、「日本人だから大事にする」のではなく「優秀で国のために役に立つ人間が日本人であるべき」くらいのスタンスだろう。でも、筆者はそうした政策が広汎な支持を得るとはちょっと思えない。


   というわけで、保守が一大ブームになることは今後もなくて、一部の進歩的な保守主義者の周囲で、保守でもリベラルでもない奇妙な人たちがええじゃないかを踊り続けるという状況が今後も続くことだろう。


   だいたい、実社会でも「あなたは本当に素晴らしい、だから楽して儲かる方法を教えてあげますよ」なんて言ってくるのは詐欺師と相場が決まっている。ええじゃないかを踊っている暇があったら、勉強してもっと好条件の仕事に転職すること。恐らくそれが豊かになるための、そして正しい保守になるための唯一の近道だろう。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
姉妹サイト