日本に足りないのは「ポジティブな変革」 チームや組織が変わらないのは「他人のせい」?

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   Business Ethicsの授業で、「ソーシャルメディアと従業員のモラル」というテーマで「Part-timer Terrorism」と題して当時日本で問題になっていた「バイトテロ」について発表したときのこと。プレゼン後、アメリカ人のクラスメイトに話しかけられました。

「確かに外食産業でキッチンで遊ぶという行為は衛生上許されない。でも、少なくとも彼らは楽しんで働いているように見える。経営陣が何かをやってはダメと規制や教育するのは簡単だけれど、そのポジティブなエネルギーを活かして、自分たちもお客さんも楽しめる職場環境を作れたらもっといいんじゃないかしら。」

批評家になるのは簡単

   なるほど、そう来ましたか。その時「やっぱりアメリカ人ってどこまでもポジティブなんだなあ」と再認識しました。魚介類をお客さんに触らせたり店員が投げたりしてしまう、シアトルの「世界一楽しい魚屋」パイクプレイス魚市場が「理想の職場」として経営者から人気を博している理由が分かります。

   もうひとつ事例を紹介しましょう。組織論のグループスタディで、A君とBさんはそれぞれのアイデアに強い自信を持っていて自説を曲げようとしない。一方、C君と私はレポートの締切が迫っている中で方向性を決めなければならないと焦っていました。そこでC君が休憩中に私に話しかけてきました。「A君、Bさんどちらの方向でやってもいいレポートが書けると思う。どちらかのアイデアを僕たち2人で支持して大きな方向性を決めつつ、そこにもう一人のアイデアを取り込んで行くのはどうだろうか」。私たちはどちらのアイデアも素晴らしいけれども今回はA君のアイデアのほうがトピックにふさわしいこと、そしてBさんの分析手法や結論をレポートに取り込むことを提案し、チームがドライブし始めました。

   このエピソードには「レポートそれ自体」よりも「組織論で学ぶべきエッセンス」が詰まっています。「君の意見は間違っている」と言って批評家になるのは簡単だし、「あのチームメイトは頭が固い」と陰口を叩くのも容易い。組織でも「同僚が働かない」「上司が悪い」「組織がダメ」というのは簡単ですが、責任転嫁しても時間の無駄。難しいけれど重要なのは「他人事ではなく、自らチームや組織をポジティブに動かすこと」なのです。高いパフォーマンスを示すチームはポジティブな議論がネガティブな議論の5.6倍、逆にパフォーマンスが低いチームではネガティブな議論がポジティブな議論の2.8倍であったという研究もあります。

日本企業、経営戦略では「過去のリーダー」

   ビジネススクールの授業の中で日本企業について語られる場面は大きく二つ。オペレーションの授業では、間違いなく日本企業はスターの座を維持しています。一方で、経営戦略の授業になると、製品のコモディティ化、そして安価な労働力によって追い越された「過去のリーダー」として扱われるケースが多い。ではなぜ追い越される前に変わることができなかったのか。キーワードとしていくつもの授業で出てきたのが「Slow Decision」という言葉。変化するチャンスはあったのに、官僚的かつ硬直化した意思決定プロセスがそれを阻んだ。年功序列の分厚い階層に妨げられて、結果として遅きに失した経営戦略しか描けなかった事例は皆さんもすぐに思いつくのではないでしょうか。

   昨今語られるのが日本のホワイトカラーの非生産性で、労働時間を効率的に短縮していくことが叫ばれていますが、残業代を出さないだけで効率が上がるかというと疑問です。

   「失われた20年」を乗り越えるために本当に必要なことは何か。日本では今でも素晴らしいビジネスの種が生まれています。それを実現するための技術やクオリティ、「おもてなし」にあふれたサービスもあります。個人的には、こうしたビジネスアイデアを拾い上げ芽生えさせる、迅速かつ柔軟な意思決定プロセスを作り上げることが一番の急務だと感じます。では、そのためにポジティブな変革をどう生み出していくか。

「Positive Energizer」を活用せよ!

ポジティブな組織変革のための6つの要件(Cameron教授の資料を基に筆者作成)
ポジティブな組織変革のための6つの要件(Cameron教授の資料を基に筆者作成)

   「Positive Leadership」の重要性を説き、Armyから企業、NPOまで多くの組織のコンサルティングを行っているCameron教授は、「ポジティブな組織改革」の要件として、「変革に向けて準備すること」「抵抗勢力を把握し巻き込むこと」「ポジティブなビジョンを共有すること」「コミットメントを促すこと」「変革を『組織化』すること」、そしてこうしたプロセスに「Positive Energizer(周囲に好影響を与える人)」を発見して巻き込んでEmpowerment(権限委譲)することを挙げています。

   言うは易し、行うは難し。「抵抗勢力を把握し巻き込むこと」「Positive Energizerを発見して活用すること」は日本の組織では特に難しいところでしょう。また、よく起きがちなのが「権限委譲」と称して「上司がやりたいことを部下に自由にやらせること」。正しくは「部下がやりたいことを上司が後押しすること」です。さらに、「ビジョン」はポジティブであるべきですが、Optimistic(楽観的)やOverconfidence(自信過剰)にならないよう注意が必要です。

   最近、ある日本人留学生が書いている記事(グローバル・イノベーション・ナビ2014年1月配信)を読んで衝撃を受けました。「成功しそうな人、出世しそうな人を見つけると引きずり降ろす」という傾向が「日本人全体に蔓延」している、大学生までそんな風に感じてしまうのか。いや、大学生だからこそ日米を比較して素直にそう感じ取ったのかも…。注目されている事象や人、人気の出そうな商品やサービスについて、ひどい場合は会ったことも体験したこともないのにネガティブにこき下ろす、確かにそうした風潮は日本のほうが強いかも知れません。

   しかし、日本の皆さんも気づき始めているのではないでしょうか。今こそポジティブさが求められていることを。ボヤくのは簡単ですが、ネガティブな感情を生み出すだけです。前述のCameron教授は「ポジティブな感情がネガティブな感情の3倍を上回ると平均で11年長生きする、30%多く稼ぐ」というデータまで示していました。個人がポジティブな意思を持って働き、組織にポジティブな変化をもたらし、社会が変わる、そんな好循環を生み出して行きたいと思います。本連載も次回が最終回!どうぞよろしくお願いします。(室健)

室 健(むろ・たけし)
1978年生まれ。東京大学工学部建築学科卒、同大学院修了。2003年博報堂入社。プランナーとして自動車、電機、ヘルスケア業界のPR、マーケティング、ブランディングの戦略立案を行う。現在は「日本企業のグローバル・マーケティングの変革」「日本のクリエイティビティの世界展開」をテーマに米ミシガン大学MBAプログラムに社費留学中(2014年5月卒業予定)。主な実績としてカンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルPR部門シルバー、日本広告業協会懸賞論文入選など。
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