分数ができないリケジョ志望学生もいる それでも「若者への責任転嫁」はお門違いだ

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   もう10年以上前になるが、『分数ができない大学生』という本が出版され注目を集めたことがあった。現在の大学はどうか。今も「できない」大学生は確かにいる。しかも、リケジョや技術者を目指す理系の新入生の間ですら……

   突然だが、次の算数の問題を解いて頂きたい。

≪1/2 + 1/3≫

「そんな馬鹿な!?」。でも、まぎれもない現実

分数の足し算?そんなのへっちゃら、多分、おそらく…
分数の足し算?そんなのへっちゃら、多分、おそらく…

   ……まさか2/5(5ぶんの2)とは答えてないでしょうね?

   通分して、

≪3/6 + 2/6≫

として足せば「5/6」と答えが得られる。

   人によっては「いや~久しぶりに小学校の算数の復習をやったよ、そうだった、そうだった。確かにそんな計算方法だった」と言い訳気味に納得するかもしれない。まあ、もっともな感想である。日常生活ではまずお目にかからないし、スーパーマーケットで買い物するときにも使わない。

   しかし、ほぼ同等というか、いや、それ以下で、「5/6」となる計算方法を理解していない大学生が、筆者の周りにも存在している。

   「まあ、文系だったらしょうがないかな~、高校に入った時点で数学捨てちゃったし…」という状況であればまだしも(文系でも本当は問題があると思うが百歩譲ってよしとして)、この手の学力不足の新入生は、未来の技術者やリケジョを目指す理系の新入生にも散見される。「そんな馬鹿な!?」と思われるかもしれないが、まぎれもない現実である。

   現在、大学には多様な入試で学生が入学してくる。一世代前では学力一発勝負か、せいぜい、二、三発勝負で入学という学生が多かった。しかし、いまは人物重視であるとか、高等学校の推薦で、という学生が相当数いる。この手の計算があやしい学生にかぎって数学の内申点が5段階評価で3とか4で高校推薦を受けてたりするから、正直「???」という状況である。はてさて、高校の学力の品質保証はどうなってるのかしらん?という疑問が……

「お前のための補習だろっ!!」の気持ちをグッと抑え…

   いま大学では、新入生の学力の2極化が大きな問題となっている。学力の十分な学生には見合った「大学の教育」をしないといけないし、不足している学生には早急に基礎力を付けさせて「大学の教育」を受けられる状況にする必要がある。

   算数も理解できていない学生は手強い存在であるが、単位外の補習や講師を配置した勉強部屋を設置するなど、試行錯誤しながら対応を図っている状況である。まあ、えてして学力不足の学生に限ってプライドが高く、単位にならない中高レベルの補習は受けたがらなかったりする。「お前のための補習だろっ!!」と怒鳴りたくなる気持ちをグッと抑え、仏様のような広い心で優しく指導を行っている。

   なお、著者は「最近の学生は…」とか「最近の若い奴らは…」という若者に対する「マイナスの意識」は持っていない。現在の若者に問題があるのなら、その制度を作り、教育を行った親世代に責任があるのであろう。さらに、その親世代に問題があることの責任は、親の親世代に……といくらでも遡れる。「若者」に責任転嫁するのはお門違いである。

   この連載では、最近良く耳にする「大学生の学力低下」の問題や「教育再生」を考える一助になるように、『未来の企業人』でもある現在の大学生の生態やその育成を担う最近の大学事情について紹介していきたいと思う。(プロフェッサーXYZ)

プロフェッサーXYZ(えっくすわいじぃー)

国立大学を卒業し大学院修了後、助手として勤務。現在は東日本の私立大学の教授であり、フラスコを持ったリケジョの研究指導をしたり、シュレディンガー方程式に頭を悩ませる男子学生の教育を行ったりしている。受験戦争世代と言われた時代から、バブル世代、ゆとり世代、そして、ゆとりは終わった?という現代まで様々な教育・研究現場を肌で体験している。大学教育のみならず初等~高等教育の現場とかかわりを持ち、日々「良い教育は?」の答えを模索し続けている。ちなみにカクテル好きというわけではない、下戸である。また、「猫」も飼っていない。
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