世の中、仕事を続けたいのに会社の業績不振でリストラされる人もいれば、辞めたいのに会社が辞めさせてくれない人もいる。
必要な人材として「厚遇するから残ってくれ」ではない。安い給料でこき使える「兵隊」がいなくなっては都合が悪い、という勝手な理屈で引き止められる事例が数多く報告されている。
「『辞めたらケジメとるぞ』と脅された」
NPO法人労働相談センター全国一般東京東部労組は2014年6月2日、4月分の「辞めたいのに辞めさせてくれない」相談事例を抜粋してウェブサイト上で紹介した。理不尽な理由で辞めさせてもらえない状況が満載だ。
ひとつは時期を巡る問題。子どもの体調不良を理由に即退職を希望したところ、「社内の決まりで退職手続きは1か月前となっている」と断られた、パワハラに耐え切れず「辞める」と伝えたところ「1か月はやめられない」と言われた、というケースが見られる。「雇用契約書」をたてに、退職の申し入れは3か月前と主張する企業もあるようだ。
会社側や上司がごねたり、知らん顔を決め込んだりするのも困りもの。「退職届を受理してくれない」「リーダーが辞めたら残されたチームの同僚はどうなる、と怒られた」「本社に(退職の)メールをだしたが返事もない。上司は『本社が…』」としか言ってくれない」などの例がある。
これがさらに進むと、恫喝ともいえる言葉を吐かれる。「辞めるなら、今までの店の改装代など全額払ってから辞めろ」「今辞めたら損害賠償で訴えてやる」、果ては「『辞めたらケジメとるぞ』と脅された」という人までいた。もはや身の危険すら感じる脅迫ともいえるだろう。
同NPOに寄せられる「辞めたくても辞められない」という相談は、少なくない。前月の報告では「わたしたちは徒弟じゃない」と大きく書かれたカードを両手に抱えた男性の訴えかける写真が掲載されていた。
民法上は「14日前に退職を申し出る」ことで成立
東京都が運営する労働問題相談のウェブサイト「東京はたらくネット」のページには、「辞めたいのに辞めさせてもらえない」際の打開策が掲載されている。
就業規則があればそれに従うのが原則だが、規則がなく契約期間の定めがされていない場合は、民法第627条に基づいて「労働者は14日前に退職を申し出ることによって、いつでも契約を解除できます」という。就業規則が14日を超える予告期間を定めている場合でも、民法が規則に優先すると考えられるという。もちろん円満退社が理想だが、会社側が「あと3か月は辞められない」と強弁するような場合は、法の裏付けをもとに押し切れるというわけだ。
NHKの番組「クローズアップ現代」は2012年4月26日放送分で、「やめさせてくれない~急増する退職トラブル~」を取り上げた。ここでは、退職を希望する男性に対して「損害賠償を請求する」と会社が脅した事例が紹介されている。会社が認めない中、それでも弁護士と相談して退職届を出すとその4か月後に訴状が届いたのだという。業績悪化を役員でもない男性に転嫁したもので、2000万円余りの損害賠償を経営側が求めたというのだ。だが地裁判決は原告側の敗訴で、逆に1000万円余りの未払い賃金を会社が男性に支払うよう命じた。
番組で、日本労働弁護団会長(当時)の宮里邦雄氏は、男性のケースについて、会社側が損害賠償を請求したのは法的な根拠が全くないと切り捨て、男性を辞めさせないための脅しの手段として裁判が使われている気がしたと話した。実際には「訴える」と脅す会社があっても、実際にはまず訴訟を起こせないとみる。
あの手この手で「都合のいい労働力」を手放さないようにする経営者の「魔の手」から逃れて退職するのは、法的には何も問題ない。それでも諸事情からなかなか踏み切れない場合は、まずは労働相談の窓口に相談するとよいだろう。