「正直が一番強い」
私は細かい社内状況は分からなかったので、Tさんに1点だけ提案をしました。
「社長には具体的な進言ではなく、銀行に黙って同じやり方をすることに罪悪感や後ろめたさがないか、そこを聞いてみませんか。できれば、このやり方に慣れっこにならないうちにすぐに。もし少しでもし後ろめたさがあるのなら、Tさんが社長と一緒に銀行を訪ねて事情をすべてお話しして、今後同様のケースが発生した時の協力要請をしたらどうでしょう」
Tさんは悩んだ末に社長に話をします。社長は「ほんのわずかではあるが、銀行に事実をすべて話してはいない心苦しさはある」と返答したそうです。これを受けてTさんは銀行への状況説明と協力要請を進言したものの、財務担当役員をはじめ社長周辺は「Tさんは銀行の立場でものを言っている」と反対し、Tさんが社内に居づらくなる場面もあったとか。しかし、最後は社長が決断してくれたそうです。銀行は社長の真摯な説明に理解を示し、当座貸越枠を設定してつなぎ資金に協力姿勢を示してくれ事なきを得たのでした。
社長は決断の理由をこう説明してくれたそうです。
「結論は、私が尊敬する経営者が言っていた言葉に従いました。私がTさんに言われて感じたわずかな後ろめたさは小さなウソがもたらしたもの。そう、経営者はこう言いました。小さな見栄や小さなウソは、それを守るためにやがて大きなウソにつながる。大きなウソはそれを守るために大きな罪を犯しがちだ。だからはじめから『正直が一番強い』とね」
R社はその後、銀行の協力の下、無事新工場が稼働。今では業界トップレベルの業績で成長を続けています。
白元の粉飾も些細なウソが発端だったのかもしれないと思うにつけ、こんなR社の一件を思い出しました。企業の天国と地獄の分かれ道は、経営者が些細な見栄やウソに目をつぶるかつぶらないかにあったりするのです。止むに止まれず見栄を張ったりウソをつきたい衝動にかられたりすることも多い社長という商売ですが、『正直が一番強い』はすべての経営者が場面場面で肝に銘じるべき大切な指針であると思います。(大関暁夫)