国際労働組合総連合のアンケート調査で、「世界最悪の経営者」にアマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏が選ばれたとのこと。2014年5月24日に同調査結果を報じた時事通信のニュースによると、同連合の書記長は「従業員をロボットのように扱っている。ベゾス氏は雇用者の残虐性の象徴だ」と批判した。この報道を受けて、早速ネットなどでは脊髄反射的に「アマゾン!ブラック!」と叫んでいる人が多数発生している。仮面ライダーかよ……。
同社の労働環境を巡ってはこれまでも、イギリスのアマゾン倉庫における仕分け作業の労働環境がいかに劣悪かを採り上げた記事(フィナンシャル・タイムズ マガジン2013年2月配信)が日本でも話題になったり、ベゾス氏が「いつになったら会社がワーク・ライフ・バランスに配慮するのか」と質問した自社社員に対して、「自分の全力を投入してすばらしい成果をあげるのは無理だというのなら、君は職場を選び間違えたのかもしれないね」などと発言したと紹介されたり、海外発のセンセーショナルな記事が話題になってきた。
雇用形態で異なる「視点」
ブラック企業問題に関する議論ではよくあることだが、海外発の記事やら、感情的な思い込みで発言するのはあまり建設的ではない。海外と日本では労働法制も違うし、労働環境についても、それが「正社員」か「契約社員」か、それとも「派遣スタッフ」か、によって視点もまったく違うからだ。
ちなみにアマゾンジャパンの場合でいうと、確かに正社員とそれ以外の雇用形態では待遇はだいぶ異なる。ご参考までに、正社員目線で同社環境をお伝えしておこう。
同社には「Work hard, Have fun, Make history」という社是のようなフレーズがあり、定時の勤務時間内では厳しいプレッシャーが存在する。高い目標が掲げられ、少しでもパフォーマンスを上げる努力は惜しまない、という社風だ。
一方で、残業を強制される風土ではない。部署にもよるだろうが、内部の人物に確認したところ、「土日もしっかり休めているし、有給が取りづらい雰囲気はない。むしろ管理職が率先して長期休暇を取得し、プライベートでも『Have Fun』ができるようにしている」とのことだった。
「仕事に対する厳しい要求とプレッシャー」だけを捉えたら、同社をブラックと考える人もいるだろう。実際、心身を疲弊させて辞めていく人もいるようだ。しかしそれでも、同社に入社を希望する優秀なビジネスパーソンは後を絶たない。元(正)社員はこう語る。
「皆、あそこがきついとわかって入ってきますからね。次から次へと新しいことを学ぶんです。イノベーションのスピードにはわくわくする」
厳しさも含めて「分かって入る」
米国アマゾン・ドット・コムの連結売上高は6兆円を超える大企業だが、その営業利益率はわずか1%程度。マイクロソフトの34%、アップルの28%などと比較すると極端に低いが、これは、利益の多くを新たな事業投資に回しているから、とも言え、やりたいことが実現できやすい会社とみることもできよう。
元社員の言うとおり、その厳しさも含めて「分かって入る」ことができ、本人の志向にも合致するなら、同社は「その人にとってはいい会社」といえよう。もちろん、だからといってFT報道のような倉庫の労働環境が正当化されるわけではなく、正社員はホワイト待遇だが、非正規労働にはそのしわ寄せがきているのかもしれない。
「それでもホワイト待遇の正社員なら関係ない」と同社を目指すか、「自分さえよければいいなんて平気な顔はしていられない」と同社を忌避するかはあなたの価値観次第だ。
ところで、労働組合がベゾス氏を「従業員をロボットのように扱っている」と批判するなら、氏は本当に倉庫全部をロボット化してしまいかねない。その時、労働組合はなんと言うのだろう。(新田龍)