塾講師女子と30歳の壁 「学校の先生」とは異なる事情

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   「女の子は出産があるから、安定した公務員か学校の先生になるのがいいわよ」とアドバイスする母親は、意外と多いようです。確かにこのご時世、学校の先生=安定というイメージはある。教員免許を取得する学生は毎年10万人以上。もっとも、実際に教員となるのは一握りで、多くは民間に就職します。

   一方、少しでも資格を活かそうと「塾」に就職する女子もちらほら。ところが彼女たちには、正規の教員にはない「30歳の壁」があるようです。

3年以内に同期の半分が退職

今日も教壇に…
今日も教壇に…

   「塾長はたぶん、私に期待してくれてるけど…何か微妙なんですよね…」と語るのは、入社4年目の塾講師、Mさん(26)。新卒で中堅進学塾に入社し、小中学生に理数科目を教えています。15人の同期のうち、今も会社に残っているのは、自分含めてわずか3人。他2人は男性です。

   Mさんが就活をしたのは、2008年のリーマン・ショック後。「就職氷河期の再来」ともいわれ、企業からは「お祈りメール」ばかり届く日々。かといって、今さら自治体の教職員採用試験を受ける勇気もない。そこで彼女が思いついたのが、塾講師です。「教員免許も持っているし、教えるのは好きだから」と面接を受け、すぐに採用されました。

   入社してすぐ、Mさんは「教えるのが好き」だけではやっていけないと痛感します。生徒の成績管理、教材作りに保護者面談。地元の中学校でチラシ、ティッシュ配り。これらはほとんど時間外労働です。昼前に出社し、退社は午前0時を過ぎるのが当たり前でした。

   「子供のことを第一に考えます!」とうたう塾に対し、「まずは社員の生活を考えてよ!」と言いたくなるほどの大変さ。不満を抱きつつ、生徒と信頼関係を築く喜びにはやみつきになるものがあり、Mさんは仕事を続けてきました。

   厚労省によると、「教育・学習支援業」の大学新卒3年以内離職率は、ここ最近では48%程度(!)。3年たてば同期の半分がいなくなっている計算です。平均は約3割ですから、塾業界の離職率はかなり高いといえるでしょう。

出産しても大丈夫?「30歳の壁」を今から意識

   Mさんの上司は50代。「女性の活用」に理解があるらしく、生え抜きの彼女に期待を寄せています。有名講師の勉強会に特別参加させてもらうなど、恵まれているとも感じる。やりがいもあるし、チラシ配りなどの作業にも身体が慣れてきました。でも、このまま働き続けられるのか、「30歳の壁」を意識するようになったといいます。

   Mさんには、結婚を考えている1つ年上の彼氏がいます。ITベンチャーの営業職。互いに忙しく、結婚を言い出せる雰囲気ではありません。4年後には、自分も彼も30代。「将来的に30歳ぐらいまでには子供が欲しい。主婦になってバイト講師をするのもいいかなって思うけど、授業は夜が中心だし、子供ができたら厳しいかも」と語る彼女。

   寿退社を夢見つつ、期待してくれる上司の顔がちらつきます。「30歳までの期間限定」で働くことには、罪悪感もある。かといって上司も、裏では私のことを「どうせ数年後には辞めるだろう」と思っているかもしれない……。

   夜間の授業が中心の塾講師が、出産後も同じように働き続けるのは難しいのです。「一生続けられる仕事が欲しい」と続けるMさん。「上司の期待」と「30歳の壁」の間で揺れながら、今日も教壇に立っています。(北条かや)

北条かや(ほうじょう・かや)

1986年、金沢生まれ。京都大学大学院文学研究科修了。著書に『本当は結婚したくないのだ症候群』『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』。ウェブ媒体等にコラム、ニュース記事を多数、執筆。TOKYO MX「モーニングCROSS」、NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」(2015年1月放送)などへ出演。
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