残業の長さではなく、働く人の数で雇用調整を
「彼らはそうした事情を知らないからだ」と思う人もいるかもしれないが、筆者にはとてもそうは思えない。というのも、上記に述べたような構造的な過労死の原因は、何も筆者の専売特許ではなくて、それこそ何十年も昔からいろいろな識者が指摘してきたことだからだ。
実際、何十年も昔から過労死は日本で発生してきたし、国連やILOといった国際機関からもたびたび是正勧告を受けている。ググってもらえばわかるが、今では『Karoshi』は英語として定着してしまっているほどだ。ちなみに筆者自身、いくつもの政党にこの問題を指摘し、今回の超党派議員の先生方の中にも、その話を聞いている人はいる。
「もちろん、これから真に有効な法改正をする。そのための準備段階だ」というのであれば、それはそれで立派なことだ。筆者も心から応援したいと思う。でも、今のところ筆者は、微妙な気分で本法案を眺めている。
そもそも過労死に賛成な人間なんているわけがないのだから、「過労死反対」という掛け声ほど幅広い有権者に訴求できるスローガンも他にない。かといって、自分のプロフィールに「過労死防止超党派議連の一員として、法案可決に尽力」と書きたいがために、遺族を引っ張り出し、命に係わる案件に便乗した議員がいるとは、筆者も思いたくはない。
そのためにも、重要なのはその先の一歩だ。残業の長さではなく、働く人の数で雇用調整させるために、必要な法改正とは何か。道は既に示されている。(城繁幸)