「不正をしなければ会社がつぶれる」という事態に直面した時、あなたが経営者だったらどうするか。そのような状況でも「不正はまかりならぬ」と言い切れるか。
「会社を守るためには仕方がない」。そう考えたくなるのが人情だろう。しかし、不正によって得たものは決して長続きせず、結局は会社を窮地に追い込むことになる。難しい局面での「経営トップの姿勢」がいかに重要かということを、多くの企業不祥事が痛感させてくれる。
税務調査の指摘後も、リベートの支払いを容認
建設コンサルティング会社A社が、日本政府のODA(政府開発援助)による海外の鉄道プロジェクト受注に絡んで、発注国の公務員らに不正リベートを払っていたことが東京国税局の税務調査により判明。2009年から2014年にかけて、ベトナム、インドネシア、ウズベキスタンで総額約1億6000万円が支払われた。
2014年4月に第三者委員会の調査報告書(以下「報告書」)が公表されたが、それを読んで何よりも目を疑ったのは、A社の経営陣が、税務調査で指摘を受けたあとも、1年弱にわたって漫然とリベートの支払いを容認し続けたことだ。
国内部門の不振により、海外案件が頼みの綱という経営環境にあったA社。上記3か国では汚職が当たり前のように横行する中で、経営陣は「リベートをやめると国際部門の売上は半減してしまう」という危機感にとらわれ、この期に及んで問題を先送し、優柔不断な姿勢を示してしまった。
「コンプライアンスの問題をどう整理するのかの問題はあるが、『ある程度』のリベート供与活動を最小に継続しつつ、幹事会社としての海外プロジェクト業務を確保する」
「コンプライアンスの問題をどう整理するか」とは、コンプライアンス違反をどうやって正当化するかということに他ならず、経営者としてあるまじき発想である。また「ある程度の」や「最小に」という表現は、「見つからないようにうまくやれ」と現場に判断を丸投げするも同然で、経営責任の放棄に等しい。
報告書には、リベート交渉に疲れ「嫌な仕事です」と本音をもらした現地の担当者に対して、本社の取締役が「何とか頑張れ。遠い日本から応援している」と返答するやり取りが出てくる。悪いことと知りながら「頑張れ」と言い放てば、部下はますます追い詰められる。第三者委員会も「会社の方針によって海外でリベート提供をせざるを得ない立場に追い込まれた社員の安全を確保しようとしない経営陣の姿勢は、社員の『人権』に対する配慮を欠くもの言わざるを得ない」と手厳しく批判している。
不正は、社員の雇用自体をより大きな危険にさらす
組織ぐるみの不祥事の常で、リベートの支払いに加担した社員の多くは、不正だと知りながらも「会社のために」やらざるを得なかったのだろう。しかし、不正は絶対に会社のためにならない。実際に、A社は外務省とJICA(国際協力機構)から指名停止等の処分を受け、国際部門存続の危機に立たされている。報告書が指摘するとおり「『コンプライアンスと利益確保を天秤にかける判断』が、社員の雇用自体をより大きな危険にさらす」事態を招いたのである。
「いかなる理由があれ、コンプライアンス違反は絶対に許さない」「不正をしてまで案件を獲得しても意味はない」そう言い切れるのは経営者だけだ。トップの姿勢がぶれれば、現場は不正を正当化し、摘発されるまで迷走を続けることになる。
再発防止に向けては、公務員への不正リベート支払いは、暴力団への利益供与と同じで、犯罪を助長し、社会に重大な悪影響を及ぼすという認識も必要だ。報告書も「A社は単なる被害者ではなく、賄賂を巧みに利用して発注側の責任者をそそのかした加害者でもある」という厳しい見方を示している。
一方、企業努力だけではこの問題は解決できない。官民がタッグを組んで「汚職がはびこる国とは一切取引をしない」という強い決意を示すことが必要だ。暴力団排除と同様に根気のいる取組みだが、正直者が最後は報われる社会を一歩ずつ実現しなければならない。(甘粕潔)