「不正をしなければ会社がつぶれる」 その時、「不正はまかりならぬ」と言い切れるか

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

不正は、社員の雇用自体をより大きな危険にさらす

   組織ぐるみの不祥事の常で、リベートの支払いに加担した社員の多くは、不正だと知りながらも「会社のために」やらざるを得なかったのだろう。しかし、不正は絶対に会社のためにならない。実際に、A社は外務省とJICA(国際協力機構)から指名停止等の処分を受け、国際部門存続の危機に立たされている。報告書が指摘するとおり「『コンプライアンスと利益確保を天秤にかける判断』が、社員の雇用自体をより大きな危険にさらす」事態を招いたのである。

   「いかなる理由があれ、コンプライアンス違反は絶対に許さない」「不正をしてまで案件を獲得しても意味はない」そう言い切れるのは経営者だけだ。トップの姿勢がぶれれば、現場は不正を正当化し、摘発されるまで迷走を続けることになる。

   再発防止に向けては、公務員への不正リベート支払いは、暴力団への利益供与と同じで、犯罪を助長し、社会に重大な悪影響を及ぼすという認識も必要だ。報告書も「A社は単なる被害者ではなく、賄賂を巧みに利用して発注側の責任者をそそのかした加害者でもある」という厳しい見方を示している。

   一方、企業努力だけではこの問題は解決できない。官民がタッグを組んで「汚職がはびこる国とは一切取引をしない」という強い決意を示すことが必要だ。暴力団排除と同様に根気のいる取組みだが、正直者が最後は報われる社会を一歩ずつ実現しなければならない。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
姉妹サイト